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「疲れた……」
修ちゃんと二人で住んでいたアパートの前に辿りついた私は、鍵穴に鍵を通そうと、ふぅっと小さく息を吐いた。
両手にたくさんの荷物を抱え、その重みでもう腕が引き千切れそうだ。
葬儀も火葬も、あれから滞りなく終わり帰りには修ちゃんのご実家にお邪魔をした。
彼の実家に行くのは今回が2度目…。つい先月、ご両親へ結婚の挨拶をしに伺った時以来だった。
「せっかくまた要ちゃんが来てくれたのにね。まさかこんな形になるだなんて…」
目に涙を溜め、彼のお母さんはお茶を淹れてくれた。遠方に住んでいたお姉さんもこの日は実家に泊まるらしく、葬儀の時からずっと私の側に寄り添い微笑を見せていたが、その表情は酷く疲れ切っている。
彼のお父さんだけが下を向き、何も言葉は発っさない。葬儀の時からずっと、喪主の挨拶の時以外は黙ったきりだった。
「寡黙な人を演じているけれど、本当は照れ屋なだけなんだよ。俺が結婚をすることを内心一番喜んでいるのはきっと父さんさ」
結婚の挨拶をする前、緊張をしている私に修ちゃんは笑いながらそう語っていた。
「口数が少ないと思うけれど、照れているだけだから気を悪くしないで」と。
……きっと、この人達にだって今の私の気持ちは分からないだろう。
私だってそうだ。まだ若い、これから自分なりの未来を作って歩んで行こうとしていた息子を、自分たちより先に亡くしてしまうだなんて…。
その悲しみを想像することはできても、本当の意味で理解をすることなんて、増してや子供を産んだことすらない私には到底無理に決まっている。
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