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でも‟幸せ”ってなに?
29歳で突然婚約者を亡くした私に、なんでみんな幸せを求めるの?
彼との未来しか、彼との幸せしか見ていなかった私に、なぜみんな別の‟幸せ”を求めてくるの?
「出棺のお時間です。最後のお別れを」
その声が、どこか遠くから聞こえたような気がして私はゆっくりと顔をあげた。今まで経験したことがないくらい瞼が重く、視界が霞む。
親族達のすすり泣きが聞こえてくる中、葬儀場のスタッフにより祭壇から細長い木箱が会場中央へと移されていく。
あの中で、彼は静かに目を閉じている。
あぁ、なんかもう、何も見えない。何も見たくない。
色どころか、今この場にいる私自身が消えて無くなってしまえばいい。
「要ちゃん、お花入れてあげて」
一人ぼーっと突っ立っている中、彼のお姉さんにそっと背中を押され、私は棺の前へと足を運んだ。
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