2. 混迷

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「すいませんこの ‟あなたに寄り添うロボット” って、これはどういう意味ですか?」 店長の話に耳を立てつつも説明書に目を通していた修ちゃんが指をさす箇所を、私も横から覗き見る。 そこには一人の少女と手を繋ぐロボットのイラストと共に、ローマ字表記で文章が添えられていた。私達には今一つ理解が難しい。 「あぁ、そこは…、こちらをご覧下さい」 同じように説明書を手に取った店長が開いたのは、一番最後のページだった。 会社の理念ともとれる内容が書かれているそのページは、こんな一文で締めくくられていた。 『喜び、悲しみ、怒り、恐怖。人が持つ感情は実に様々です。けれど、その感情一つ一つがあなた自身を育成しています。感情があるからこそ、人は喜びを分かち合える。感情があるからこそ、人は悲しみに共感できる。そんなあなたに寄り添うことのできる、世界にたった一台のロボットを目指します』 「寄り添うことのできるロボット……」 不覚にも、その一言に胸打たれるものがあった。しかし、それは私だけではなく彼も同じだったらしい。 「…あのロボット、今日持ち帰ってもいいんですか?」 「えっ!?」と思い振り向いた時にはもう遅かった。 修ちゃんはもう、あのロボットを持って帰る気満々といった表情をしていた。
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