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途中、彼の足元に設置された小さな箱から、名前も分からぬ白い花を一つ手に取る。
無表情でせっせと棺の中に花を入れては取りに行ってを繰り返す、まだ幼い親戚の子供たちをかいくぐって、そっと彼の胸元にそれを置いた。
「修ちゃん」
名前を呼ぶも、彼が目を開ける気配はない。
「ごめんね要ちゃん。こんなことになって本当にごめ…」
横にいた彼のお母さんに涙ながらにそう言われ、私は力なくかぶりを振った。
‟幸せになって”と同じくらい、‟ありがとう”と‟ごめんね”を、今日は何度言われただろうか。
あえて涙を誘うかのようなBGMに、うすら明かりを残した照明。
まるでお芝居でも見ているかのような、そんな現実味のないこの空間で、たくさんの花に囲まれ目を閉じたまま動かない彼を見て、頭の中にふつふつと疑問が湧き上がる。
ーーーなに、これ?
夢?現実?
今ここにいるのは私なのか。棺の中で目を瞑ったまま横たわっている人は彼なのか。
全部全部分からない。なんでこんなことになったんだろう。
私はこれから一人、どう生きていけばいいのだろう。
…生きなきゃ、だめなのかな。
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