第1章 『たい焼きの数えかた』

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「こう!っていうのは無いんですけど、だいたい『1枚』が多いですね」 僕がそう言うと、源さんが大袈裟に顔をしかめる。 「なんだよ、ちゃんとしたやつねーのかよ?」 「俺は1枚だな」 亀さんが、残った目玉の辺りを口に放り込む。 「1枚じゃ、煎餅と同じだな」 ようやくあんこだけ吸い取った吾郎さんが、皮だけをむしゃむしゃと食べ始める。 「あっ」 思い出したというように、僕は声を上げた。 「1尾(び)っていうのもあります」 そう言った瞬間、3人が顔を見合わせる。 なんだか変な間ができてしまった。 「あいつ、なにしてんだ?」 とっくに食べ終わっている源さんが、さらに顔をしかめる。 「俺が出てくる時は、魚のケース洗ってたな」 亀さんが眉を寄せると、ずずずっとお茶を飲み干した吾郎さんが「どうしようもないな」と、ため息まじりに吐き捨てた。 そうなんだ。 3人じゃなくて、4人だ。 いつも4人で連れ立ってやってくる。 それは『ブルボン』のモーニングだったり、おにぎり専門店『千作』の天むすだったり。そのローテンションに『ありき』も組み込まれていていて、朝からぞろぞろと4人はどこかの店に顔を出す。
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