第1章 『たい焼きの数えかた』

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ちょうど半月前、大丸商店街はお祭り騒ぎだった。 年1回の五社観音祭りや四季折々のお祭りは、多くの人で賑わう。 でもそうじゃなくって、なんの催しも行われていないのに、みんなが浮き足立っていた。多くのお店がセール品や値引きをし、それはもう祝福モードに溢れ返っていたんだ。 僕もその日は、たい焼きを100円にしたくらい。 一体、どんな記念日かというと__。 魚屋『河磯』の大将、楽(ろく)さんのところに新しい命が誕生したんだ。 生まれるや生まれないやらで、行き場のない熱気に包まれていた商店街が、誕生とともにうねりをあげる。 どうしてそこまで周りが盛り上がったかというと、それは楽さんの年齢に関係していた。 楽さんは、もう還暦だ。 子宝に恵まれず、後継を諦めていた。 そんな時、20歳年の離れた奥さんに小さな命が宿った。 その時の喜びようときたらもう、説明しなくても分かるだろう。 それが、いつ頃からか? 次第に、楽さんがふさぎ込んでいると噂が広がった。 初めての子供、それも念願の男の子だ。 柄にもなく緊張しているだけで、生まれたらまた以前のように陽気に練り歩くに違いないと、商店街のみんなは思っていたが__。
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