第1章 『たい焼きの数えかた』

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「あいつ、病院にも行ってねーんだろ?」 すでに初孫が4人もいる源さんは、呆れ顔だ。 「まだ名前もつけてないって聞いたな」 結婚が早かった亀さんにいたっては、こないだひ孫が生まれた。 吾郎さんは孫はまだいないが、心配そうに考え込んでいる。 若い頃からこの商店街を切り盛りしてきた、立役者たち。 揉め事を武勇伝のように話してくれる仲に、ようやくなれたのだろう。だからこそ、どうにかしてやりたいという気持ちと、どこまで立ち入っていいのかという線引きの間で、3人は揺れている。 こういう時、僕はなにも言わない。 話は聞くでもなく聞くし、意見を求められれば答えるけれど、あえて自分からはなにも言わないようにしている。 「ちょっくら、覗いてく?」 そう言ったのは、吾郎さんだった。 「そうだな。たい焼き持ってくか?」と亀さんが後に続く。 「こいつが焼きすぎたから仕方なくってことにしねーか?」 源さんが僕を指差すので、どーぞどーぞと心の中で返す。 どーぞ僕をダシに使って下さい。 結局、3人は焼き上がろうとしていたたい焼きを全部、買っていってくれた。 楽さんの分じゃなくても、店番をしてくれている奥さんへの土産にいつも買ってくれるんだ。 「ありがとうございます」 僕は、3人の背中を見送った。
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