第1章 『たい焼きの数えかた』

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「俺が生んだわけじゃねーのに、なんか腹が痛くてよ。初めて抱いた時__ちょっと俺、寒気がしてよ。くしゃみでもしちゃ、潰れちまうじゃねーかって」 そう言って、やや大きめの鷲鼻を掴んで揉んだ。 色んな修羅場をくぐり抜けてきたであろう楽さん。 還暦となった今、なにかを試されることはもうなくなっていたんだ。 それが、赤ん坊という壮大な未来を託され、戸惑っている。 未知なるものを胸に押しつけられ、途方に暮れているというわけで__。 「そのうち、慣れるんじゃないですか?」 ぽろっと口にしてしまった。 すると楽さんは、たちまち目を吊り上げる。 「おめぇーは子供もいねーじゃねーか!適当なこと言うんじゃねーよ!」 「はい、すみません」 素直に謝ると同時に、余計なことを言わないという取り決めを忘れていたことを思い出した。 客商売は『空気』になること。 あって当たり前、なくては困る。お客さんにとってそんな存在になりなさいと言われたことがある。 空気になる、空気になると念じていたが「なに黙ってんだよ、なんか意見ねーのかよ!」と絡んでくる楽さん。 参ったな。 今日の楽さんは、いつになく粘っこい。 どうしようか迷っていると__。 「たい焼き『1尾』下さい」
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