第1章 『たい焼きの数えかた』

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4 困惑顔の青年に、僕はとっておきの秘密を打ち明けるように言った。 「1尾って頼む人は、楽さんしか居ないんで」 おそらく、含み笑いをしていたことだろう。 ひとって、秘密を共有すると仲良くなる。 「たい焼きも立派な魚だと、小さい頃、そう教えられました」 「楽さんらしいですね」 「はい、親父らしいです」 笑うと、目尻が下がる。 「そうじゃなくても、目元がそっくりですよ。親子同士は気づかないかもしれないけど、他人から見たらうりふたつ」 「参ったなぁ」 頭をかく青年は、楽さんが去っていったほうを振り返った。 それも、とても長い時間。 「まさか、親父があんな感じだと思わなかった」 「あんな感じ?」 「僕の知ってる親父は、自分そのものが正解だっていうひとで。それを指摘したり正したりするひとが居なかった。小さい頃は、それが随分と眩しかったりして」 「自信家だったんですね」 「そんな優しいもんじゃなかったな」 軽く笑った青年は、またどこか遠くを見やる。 それは『ここ』ではないどこかに思いを馳せている目で。 ふと思い出したように、顔を上げた。 「そういや僕__【未来】に行きたかったんだけどなぁ」
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