第1章 『たい焼きの数えかた』

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5 寒さが徐々に本気を出し始める、師走。 やや慌ただしさが漂う大丸商店街には、耳慣れない泣き声が__。 「邪魔するぜぃ」 やってきたのはまだ開店前、いつもの面子で店はたちまち賑やかになる。 「『みかど』と『定森屋』どうなった?」 口火を切ったのは、源さんだ。 「どうもこうも、ぼや騒ぎまでなってよ」 亀さんが声をひそめると「俺んとこなんか煎餅が燃えちまったよ」と、吾郎さんが項垂れる。 この3人のように、みんなが連れ立って仲が良いわけじゃない。 中には、顔を合わせるとツバを吐きかける間柄もあろう。それが隣同士となれば、諍(いさか)いは絶えず起こる。 「それがよ、俺が間に入って手打ちにしてやったんだよ」 そう言って胸を張るのは楽さんで、その楽さんの胸には玉のような可愛らしい赤ん坊が、すっぽりとおさまっていた。 「5枚で、良かったんですか?」 焼きあがったたい焼きは、5枚。 「ちゃんとこいつも数に入れてやんねーとな」 すーっと寝息を立てている、楽さんの倅くん。 「でも、あんまりまだ変わったものあげないほうがいいんじゃ__?」 「てめぇは余計なこと言ってねぇで、焼いてりゃいいんだよ!」 いつもの喝が飛ぶと、ぱちりと目を開けた倅がたちまち泣き始めた。 それはもう、この世の終わりみたいに。
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