第1章 『たい焼きの数えかた』

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「大志、おめぇ父親がいっぱいだな」 楽さんが、吾郎さんの手から倅くんを奪い返し頬をすり寄せる。 『大志』という名前にしたと、わざわざ報告に来てくれたのは数日前。 まだ首も座ってないし、外の世界に免疫もできていない。 いくら子供が居ない僕にだって、それくらいのことは分かるけど__競い合うようにしてあやしている滑稽な姿をみていると、心がほっこりする。 ましてや「大志(たいし)の大は、たい焼きって意味もあんだよ。ホントは鮪(まぐろ)って名前にしたかったけど、反対されてよ。なんでもいいから魚な名前を入れたくてな。立派な後継にしたいからな」なんて言われればね。 「おい、なんか臭わねーか?」 源さんが鼻をひくつかせる。 「マジか⁉︎」と楽さんが慌て出す。 「俺がやろう。なんせひ孫までいるからな」 亀さんが名乗り出るものの、紙おむつじゃなく布だと知るやいなや、知らん顔でたい焼きを食べ始めた。 「ふ、拭くもんあるのか?」 「リュックにちり紙がある!」 「優しく拭けよ!赤ん坊のケツは桃だからな!」 「んじゃ、亀のがいいんじゃねーか?」 「なんで俺なんだよ⁉︎」 「おめぇ、青果店だろうが」 「それとこれとは__」 「うわっ、ついちまった!」 「きたねっ!」 「おい、ねじりつけるな!」 「な、なんとかしろ、たい焼き屋!」 「そうだ、おめぇーが1番若い!」 「たい焼き焼けるし」 「おい、なに笑ってんだよ!」 「いや、いいんじゃないですか?」 「なにがいいんだよ⁉︎」 「大志くん__笑ってるんで」
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