第1章 『たい焼きの数えかた』

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僕は、たい焼き屋だ。 焼き始めてもう6年になるが、未だにこの大丸商店街では新参者。 隣の乾物屋『きよしや』のジイちゃんからすれば、僕はまだ子供らしい。そりゃ、ここが戦争で焼け野原になった時から、物々交換で生業をスタートし、もう93歳のジイちゃんからすれば、孫でも足りないだろう。 店の明かりをつけ、早速、仕込みにとりかかる。 仕込みといっても、商品が何種類もあるわけじゃない。 『あんこ 130円』 看板メニューはこれだけだ。 今の時代からすると逆行しているように見えるだろう。でも簡単な話、商品を増やすとそれだけ手間もかかる。1人でやるには、1つを突き詰めたほうがいい。 いや、それよりたい焼きといえば『あんこ』でしょ? 黙々と同じ工程を進めていく。 すぐに朝日が波紋を広げていき、商店街が完全に息をする。 表を履いていると、きよみやのバアちゃんがやってきた。多少、耳が悪いだけの92歳。元気すぎてびっくりだ。向かいの喫茶店『ブルボン』のマスターは89歳で現役。 後継問題でどんどん高齢化が進んでいて、まだ26歳の僕にかかる期待が大きい。
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