第2章 『頭から?尾っぽから?』

5/35
前へ
/166ページ
次へ
一丁焼きと、量産型。 確かに1枚ずつ両面をよく焼いたほうが、ぱりぱりに仕上がる。でも一気に焼き上げる量産型も、焼き方次第で、一丁焼きに近づけることは可能だ。 昔ながらの手焼きは、今は稀有となっていて貴重でもある。 ただ、数が焼けない。 たい焼きの購入枚数は、平均で5枚。1枚を買ってすぐ食べるお客さんも多いけど、10枚20枚をお土産や差し入れに買っていくお客さんも同じくらいいる。 中にはイベントや祝い事に、50枚や100枚といった大量注文も珍しくない。 そういった時、一丁焼きでは厳しいものがある。 思わず目を惹く珍しい鉄板を、オブジェとして飾ってあった。 「はい、お待たせ。260円ね」 「うわぁ、焼きたて」 美代ちゃんが、ほっこり笑った。 「ありがとう!」 「こちらこそ。行ってらっしゃい」 「行ってきます!」 ようやくいつもの元気を取り戻した美代ちゃんは、たい焼きを胸に抱いていた。宝物だとでもいうように。 後ろ姿を見送った僕は、はつらつとした若さに目を細める。 なんだか、随分と年を取った気分だ。 こんなことを言えば、商店街中から袋叩きに遭うな。 呑気に笑っていた僕は次の日、ぎょっと驚くことになる。 翌朝、お店に制服姿の女子学生がゾンビのように押し寄せてきたからだった__。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加