第2章 『頭から?尾っぽから?』

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『揉みじや』の牧子さんがやってきたのは、お昼過ぎだった。 じーっと僕の目を見つめ「たい焼き、2枚ね」と注文された時は、思わず身を引いてしまったが__。 「なによ、私がたい焼きで恋を叶えちゃいけないっていうわけ?」 やや上目遣い睨みをきかせる独り身の牧子さんは、とてもお茶目だ。 そしてとても小さい。 白衣にダウンジャケットを羽織っているが、小学生かと見紛うほど小柄だった。 それなのに、とんでもない力で指圧する。その凄まじさは、あの源さんたちが悶絶するほど。僕も仕事帰りに整体を受けることがあり、終わるとウソみたいに体が軽くなる。 「お店、いいんですか?」 話をそらしてみた。 「えっ?いいのいいの」と軽くあしらわれる。 いくら斜め向かいとはいえ、お店を留守にするのは大丈夫なのか?と始めの頃は心配になったけれど『揉みじや』の前には、いつも黒板が置かれている。 『健康の源は足から‼︎30分1980円』と書かれていることはあまりなく、ほとんど『留守。○○○にいる』と走り書きがしてある。その下に電話番号が書かれてあり、お客さんが呼び出すシステムだ。 黒板に絶対の信頼を置いているのか、斜め向かいのありきだけじゃなく、牧子さんはあちこちに出かけている。
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