第1章 『たい焼きの数えかた』

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耳慣れた音楽が、アーケードに響く。 時刻は7時きっちり。 ホウキを立てかけ、僕は店の前に躍り出た。 「おはよう!」 斜め向かいで整体をしている『揉みじや』の牧子さんが大きな声で手を振った。僕もたまにその手にお世話になっている。 「おはようございます!」 元気よく挨拶をし、腕を思いっきり回す。 最初はなんだろう?と思ったが、もう何十年も前からラジオ体操をするのが、この大丸商店街の習わしだった。 とはいっても、大半は適当に腕を動かしながら喋っている。 この僅かな時間の情報交換がまた、商店街には必要なんだろう。 左右100メートル、それぞれの店主が並んでいる景色はある意味、爽快だ。僕がお店を始めてから、ところどころ虫食いのようにひとが欠けていったが、昨今の『シャッター通り』なんていう風潮からすると、大丸商店街は踏ん張っていた。 なぜか最後は一本締めで終わる。 ぱんっ!と冷たい空気を叩き、僕はお店に戻る。 お店の開店時間は9時だ。 まだ2時間あるが、鉄板に火をつける。 そろそろかな?
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