第1章 『たい焼きの数えかた』

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次に、あんさしをむんずと掴む。 丸い柄の先は、40センチほど平らに伸びていてそこにあんこを詰め込む。これもステンレス製でよく見かけるけど、僕はあえて木で手作りをした。 お客さんが、1番に見るところだから。 だから、木の温もりを伝えたかったんだ。 ヘラであんこを切るようにして、生地の上に落としていく。 この時、気をつけるのが、頭のほうにたくさん入れること。そのため、あんさしに詰める時点で斜めにするんだ。そうすると、全体的にバランスよくあんこが行き渡る。 もちろん、尻尾までね。 ヘラで押すようにして生地を広げ、あんこを埋もれさせる。 薄皮たい焼きを作る時の基本だ。 あとは焼けるまで、じーっと待つ。今にも消えそうな弱火で、じっくりことこと煮込むように焼く。 焼き時間は決まっているわけじゃない。 急ぐなら、油をいっぱい引いて強火で焼けば、あっという間に出来上がるだろう。でも僕は、じーっと待つ。 ちなみに、油も引かない。 くっつかないかって? それは大丈夫。鉄板に油を染み込ませるため、お店が終わったあとに、余った生地で何度も試し焼きをするから。だから僕の鉄板は、いつも艶やかだった。
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