第1章 『たい焼きの数えかた』

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ぷすぷす。 そんな音が聞こえてきそうだ。 大小、いくつもの穴が開いてくる。ホットケーキを焼いたみたいに。そうなんだ、僕のたい焼きは和菓子というより、洋菓子に近い。そんな甘い香りがするのだと、お客さんたちが揃って口にする。 千枚通しでたい焼きを持ち上げ、反対側の型にチャッキリで生地を流す。 ほんの少しだけ。 両方の鉄板を持ち上げて__すっと蓋をする。 ここでしばらく蒸し焼きにするのがポイント。 蓋を開けると、油ムラのない綺麗なたい焼きが出来上がっていた。 もし次の注文が入っていれば、また6つの型に生地を流し込むってわけ。 裏面が焼けたら、6枚のたい焼きの完成だ。 注文は3枚だけれど、これでいい。 『ありき』は基本、焼きたてしか売らない。 どうしても焼きたてのたい焼きを食べてほしいという思いがある。 焼きたてを手にした時、誰もが顔を綻(ほころ)ばせるから。 お茶の準備をしていると__「焼けてる?」とお客さんが入ってきた。 「3枚ならもうすぐ焼き上がります」 「じゃ、3枚でいいわ。いい匂いがしたから」 いつも買ってくれる常連さんだ。 ほらね、6枚全部売れたでしょ?
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