第1章 『たい焼きの数えかた』

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老舗のうどん屋『弁慶』の3代目と、フィリピンバー『マリーン』のママが居なくなって半月が経った。 この話題で商店街は持ちきりだったけど、どうやら今日から営業するらしい。 こりゃ、また一騒ぎあるな。 僕は1人でたい焼きを焼いている。 それなのに商店街の裏側まで把握しているのは、この3人のお陰だろう。 いや、4人か__。 「お兄ちゃん、たい焼き5個ちょうだい!」 お客さんがやってきた。 こちらも常連さん。 まだ営業時間前だけど、こうして中に人が居ると入りやすいらしい。逆に誰も居ないと、入るのに躊躇する。行列が絶えないお店は、そういった心理が働くんだ。 だから僕は、先を見越して焼き始めていた。 「たい焼き、2枚ありますか?」 こちらは、初めてのお客さん。 食べながら、商店街突き当たりの【観音様】に行くのかな? そんなことを考えていたら、不意に源さんが言った。 「たい焼きってのはよ、どう数えるんだ?」 「えっ?」 「1枚か?1個か?正式なやつがあんだろうが?」 半ば喧嘩腰の物言いだが、別に怒っているわけじゃない。 亀さんも吾郎さんも腕組みをして首を傾げている。 たい焼きの数えかた?
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