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僕は一両目のドア近くに駆け寄って、付箋をつけておいた「コンテスト結果発表!」のページを車両に向けた。
「福井県:菅原勝郎さん」の横に「またね」のタイトル。
鉄道写真なのに、北陸新幹線が端の方で見切れている。代わりに、頬と頬をくっつけて別れを惜しむ、小さい女の子と祖父らしきおじいちゃんのアップ。
「佳作だって」
警笛が笑ったように「ファン」と鳴った。
運転士が、窓から顔を出し、近くの駅員を呼んでいる。「……何か、警笛が勝手に鳴ったんだけど……こわ」
心の中で「スミマセン」と謝りながら、iPodの自撮りで勝郎さんと写真を撮った。
「じゃあね。北陸新幹線が延伸したら、福井もいつか行ってみる。……僕が運転してるかもよ」
僕は右手を広げ、青のラインにそっと触れた。
警笛は鳴らなかった。
コンテストの結果を見て、勝郎さんは「離れた」のかもしれない。
取手から戻って来たE231系が、反対側のホームに滑り込んだ。その緑と黄緑の鮮やかなラインに、やっぱり僕の心は沸き立つ。
交代のため、運転士が降りてくる。
黒の制服に身を包み、白い手袋をはめた姿に「いつか、僕も」と肺に空気をためる。
デッドセクションでは立ち止まらない。
大丈夫。レールは続いている。
どこまでも。
どこへでも。
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