白い手袋、緑のライン

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「冬馬、何点だった?」  友達の「仲間」を求める問いかけに、僕はスクールザックを背負いながら愛想なく答えた。「教えない。最悪すぎ」  ザックの奥底には「二学年三学期期末テスト」の解答用紙。しかも数学。 「やべえ、親に殺される」「社会に期待するしかない」「英語も、たぶん死んだ」  二学期も同じ会話をしたデジャ・ヴを感じながら、僕は校門を出た。「じゃあな」と言った僕の口から、蒸気機関車のような白い煙が吐き出される。  二月も半分が過ぎた。けれど、頬に触れる空気は、まだ尖って痛い。  道路はスケートリンク状態だ。夕べ降った雪が昼間の太陽で融け、日が沈んだ今は、またカチカチに凍って道を覆っている。  人も車も、一番滑るパターン。  その舗道を、車の列が祈るようにそろそろと前進している。  道路の両脇に、うず高く積まれた除雪の山脈。そのせいで狭くなった歩道を、北国仕様の転ばない歩き方……つま先に体重をかけ、うつむいて、小刻みに……歩く。いつもなら通り過ぎているはずの交差点が、僕を待たずに赤になる。  親に車で迎えを頼む、という手段もある。けれど、顔を合わせれば、すぐテストの結果を聞かれるに決まってる。  青へ変わった信号に、僕はまた背中を丸め、横断歩道に足を踏み出した。   反対車線から、右折してきた車のヘッドライトが近づいてくる。僕の手前で、ブレーキのきゅっという音がした。  こんな路面じゃなければ、車はきっと停まってた。 「ああっ」と口を大きく開けたドライバーの男の顔が、見えたような気がする。  ぶつかった記憶も、衝撃も、痛みもない。  けれど、今。  僕は、どこかの駅の、レールの上にいる。
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