白い手袋、緑のライン

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 ピンポンピンポン、とドアの開く音がして、僕のからだがずんずん軽くなった。次にまた、ずんずん重くなった。  僕の中で、人が乗り降りしている。僕は今、となりのトトロのネコバス状態だ。  またピンポンピンポン、と音がして、電車は……僕は、ゆるゆると駅を離れていく。 「どこだ、ここ?」  両側に、明かりの灯ったマンションや家が立ち並んでいる。僕の住む街じゃない。僕の街の電車は、ほとんどの区間で田んぼの中を疾走する。夜の車窓は漆黒の闇だ。  僕の中で、車内アナウンスが告げた。 「間もなく南千住。南千住。降り口は右側です」  南千住駅に入ってすぐ、防音用のアクリル板に僕が反射した。流れるように緑と黄緑のラインが映る。その先頭車両、クハ・E231系。  自分が死んだかもしれない、ということより、この状況の衝撃が勝った。  僕は叫んだ。声は警笛になって、南千住の冷えた宵の空気を震わせた。 「常磐線快速だ!」
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