白い手袋、緑のライン

4/13
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「あのな。人が、乗り物に生まれ変われるはず、ねえだろ。お前、()りついてるんだよ、常磐線快速に。俺は死霊。お前は生霊かもしれねえ」  その言葉に、僕は思わず大声を上げた。 「ひい。死霊より、生霊の方が怖い」  突然、隣の車体がキインと鳴り、勝郎さんの声が怒ったように高くなった。 「そんなこと、言うもんじゃねえ」  なぜ勝郎さんが声を荒げたか分からなかった。けれど僕は、とりあえず謝った。「……ごめん、なさい」  無言になった僕たちの横を、上りと下りの快速が一本ずつ、それに特急「ときわ」が一本、通り過ぎた。  先に気まずさを破ったのは、勝郎さんだった。気さくな口調に戻っている。 「俺さ、第二の人生、鉄道写真家になりたかったわけ。で、『月刊鉄道大好き』の半年に一遍やってるコンテストに応募したわけ。その発表が迫ってるときに、不意の病で死んだわけ。結果を見に本屋、行ってないわけ。だから、成仏してないわけ」  僕はほっとして、話に乗った。 「鉄道大好き、僕も買ってます。でも……勝田からここまで飛べるなら、本屋にも行けるんじゃ?」 「それがさ。一度鉄道に憑りついたら、そこから離れられねえ」 「でも、どうして常磐線?」  勝郎さんは、皮肉めいた調子で答えた。 「お前も鉄道好きなら、そこは分かれよ。ほら、言ってみろ。常磐線の凄さを」  僕は頭の中にある鉄道本やウィキペディアの中から、「常磐線」を検索した。 「ええと。上野から、宮城の岩沼までをつないでる。『本線』がつく路線以外じゃ、一番長い。直線区間で時速130㎞を出す。各停にしたら、最速。あと……去年、福島の事故から九年かけて、全線復旧した」 「……だろ? 凄いよな」 「うん」僕の前照灯が、チカッと瞬いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!