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「最初に無神経だったのは、そっちでしょ。だから俺も遠慮しない」
「私は気配りの天才なんだけど」
「うそ。俺は、お前の発言で、かなり傷つけられたよ。特に、ここ半年は、怒濤の勢いで。殺されるかと思った」
七海の冗談も男は無視した。軽い口調だが、どこか真剣味を帯びている。含められた棘が鋭く、七海は息を呑んだ。
「ねえ、俺が後押ししたときの気持ち、わかんないでしょ」
「ちょっと、まって」
するりと彼の手が頬を撫でた。
びくりと震えた七海を、宥めるように、背中に手を回して、ぽんぽんと軽く叩く。抱きしめて、首筋に顔を埋める。熱っぽい息が、くすぐって、七海の体温は急上昇する。火照る頬に彼の髪が当たり、香る。昔から知っている、彼の匂いに、くらりと目眩がした。
「この結末を期待して、そんな自分の最低なとこを、自覚して、自己嫌悪して。それでも嬉しくてたまらなくなる、浅ましさを隠しきれない」
こんな最低な魔法使いにした責任、取ってくれるよね。
「初恋が叶わないなんて、くそくらえ。だろ?」
――お前だけの、魔法使いになってあげる
そう笑った。
頬の朱色に。泣き出しそうな瞳に。貪欲に求める手の温かさに。
七海は、すでに負け始めているのを、感じていた。
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