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明日からが憂鬱だ。きっと気まずいだろう。
一番心配なのは、あの男が言いふらさないか、だ。振った女を、他の男に押しつけて去るような奴だ。想像もしたくないが、あり得ないとは、言い切れないのでは、と不安になる。
「魔法使い」
「は?」
いつの間に近づいていたのか。扉付近で立ち止まって、俯いていた七海を、覗き込む幼馴染み。微かに笑みを浮かべて、突飛な発言をする。
まほうつかい、と復唱してみたが、意味は不明だ。
「魔法使い、知らない?」
「……魔法がつかえる人」
ファンタジー小説で得た知識。今、この状況で、出てくるのは何故だ。相も変わらず幼馴染みからは、思考が読み取れない。
「漫画で見た。時間を巻き戻してた」
「それが、なに」
苛立ちをぶつけてしまい、しまったと口を噤む。彼は何も悪くないのに。ごめん、と謝ったが幼馴染みは、さして興味がないらしく、続けた。
「時間は無理でも、忘れさせる魔法なら使える」
「記憶喪失にするの? 何? 殴るの?」
「七海って、たまに暴力的になるよね。悪い癖だから直した方がいーよ」
それ以外に記憶を消すなど不可能ではないか。まさか。よくない薬でも、使うのではないか、と引き気味に、伝えれば「殴るのも、薬も同じく駄目だからね。なんで殴るのは引かないの」と楽しそうに、喉を鳴らした。
「目には目を歯には歯を」
「どうしたの、何?」
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