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Drink it down ②
大学の談話室の隅で携帯電話を弄る。
俺が大学に進学した時に、連絡用にと黎が買ってくれた物だ。
二人色違いの、お互いの番号しか登録していない携帯電話。
履歴に並ぶその黎の番号を何度も見返しては小さく溜め息を吐く。
『バーに来たいなんて二度と言うな』
昨日の深夜、帰ってきた黎は開口一番そう言い放った。
「どうして?」と食い下がる俺に
『どうしてもだ。他の店になら連れて行ってやる。けどうちの店はダメだ』
黎はいつだって俺にちゃんと言ってくれる。
まだ俺が大学に進学する前の頃、時々帰りの遅い黎から女物の香水の匂いがするのが堪らなく嫌で、泣きながら文句を言ったのが始まりだった。
あれ以来どんな事も俺にちゃんと言ってくれる。
けれど偶にどんなに俺が求めても、何も言わない何も語らない時がある。
そんな時の黎は決まって不機嫌だ。
あの日、泣きながら文句を言って縋る様に抱きついた俺を、黎は受け止めてくれた。
『お前を……裏切りたくないから』
そう言って宥める様に頭を撫でてくれた黎は本当に綺麗で、俺は初めて自分から
『黎、俺の血を飲んで…』
そう口にした。
あの日が本当の意味で、二人の始まり。
そう思っていた。
でも黎は違うんだろうか?
黎にとって俺は “自由に血を飲ませてくれる都合のいい人間” でしかないのだろうか…
「先輩、どうしたの?今日はずっと元気ないね?」
昼で講義を終え帰路へと向かおうとして、隣に並んだ優希が俺の顔を覗き込む。
「ん…ちょっとな…」
「…先輩、今日バイトは?」
「……夕方から」
今日も本当は休みだったけど何となく家に居づらくて、バイト先のコンビニに連絡してシフトを変えてもらった。
「じゃあさ、今からカラオケでも行こう?パァッと発散すれば気分も晴れるよ!」
屈託なく柔らかく笑う優希の笑顔につられる様に笑う。
「…そうだな」
優希と肩を組みながら街へと向かった。
「ただいま」
バイトに間に合う様にと帰宅すると、リビングで険しい顔の黎が待っていた。
「…遅い。今日は昼までじゃなかったのか?…何してたんだ?」
「…友達とカラオケに行ってた」
黎の前を通り過ぎ様として腕を掴まれる。
「ならどうして電話してこない。昨日の事をまだ拗ねているのか?」
「……俺、バイト入ったから出かける…」
「今日も休みだっただろ?」
「……」
掴まれた腕を振り払った。
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