Drink it down ②

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「皓太っ!!」 掴んでいた腕を振り払い通り過ぎ様とした身体を、咄嗟に引き寄せる。 「…っ!?」 その身体からふわりと漂った匂いに、一瞬言葉を失った。 ……誰だ?俺以外の……人間、それも……男の…匂い? 「……黎……離して…」 「……」 「バイト…遅れるから…」 「……誰だ?」 「え…?」 「…誰と……一緒だったんだ?今日」 「え?…だから友達だって、大学の…」 「こんな匂いが付くほど密着するぐらい仲が良い友達か?」 「っ?!」 力尽くで胸を押され離れた身体。 俺を見る驚いた様な困惑した様な顔が、目で訴えてくる。 “どうしてそんな事を言うんだ?” と… 訳の解らない怒りにギュッと拳を握る。 「……俺も仕事に行ってくる。……バイト、気をつけて行けよ」 皓太に背を向けながら、異様な喉の渇きを覚えた。 「くそっ!!誰だよっ…いったい!」 クロスを投げつけた手で髪をグシャグシャと掻き乱す。 噛み締めた口許から歯軋りの音が零れた。 「ようレイ。コウタは一緒じゃないのか?」 目の前に座りニヤニヤと笑う男に隠す事なく舌打ちをする。 「何だよ、そんな怖い顔して。綺麗な貌がもっ」 「何を飲むんだ?何も飲まないのなら帰れ」 「…マジで何を怒ってんだよ?」 「お前には関係無い」 そのでっかい目でマジマジと見てくるリックから顔を背ける。 イライラは募り喉の渇きは増すばかりだ。 「何だよ。お前、コウタと喧嘩でもしたのか?それで血も飲まさせて貰えないのか?」 「…?」 リックに視線を戻し、 “どういう事だ?” と目で問う。 「気づいてないのか?さっきから何度も喉を擦っている。…もう何日も血を飲んでないんじゃないのか?」 リックが俺の喉元を指差す。 そう言われて初めて、自分が無意識に何度も喉を擦っている事に気がついた。 「お前さぁ他の吸血鬼はおろか、ずっとコウタ以外の人間の血を飲んでないんだろ?それなのにそのコウタからも血を飲まさせて貰ってないから、身体が血を欲しがってるんだよ。俺達吸血鬼は特定の相手からしか血を飲まないでいると、たった数日飲まないだけで喉が異常に渇く。執着が飢餓に繋がるんだ。気をつけろよ?」 いつもの巫山戯た態度は陰を潜め、真剣な顔で忠告を残しリックはバーを後にした。 皓太を思い出すほどに、喉の渇きは増していく一方だった。
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