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Drink it down ③
ドリンクコーナーに水やお茶のペットボトルを並べながら、家を出る直前の黎を思い出す。
『こんな匂いが付くほど密着するぐらい仲が良い友達か?』
滅多に見せる事の無い、凄く怖い顔をしていた。
あんな顔を見たのは、いつだったかバイトからの帰り道、無理矢理ナンパされていた女の子を助け様として不良に絡まれていた俺を黎が助けてくれた、あの時以来の気がする。
俺がまた変な連中に絡まれたんじゃないかと心配してくれたのか?
ちゃんと大学の友達だと言ったのに…
俺に黎以外に誰か親密な友人ができたんじゃないかと疑ったのか?
優希とはそんなんじゃないのに…
黎に言われて、黎との約束を守る為に、俺は頑張ってきたのに…
今の俺は黎にとってどういう存在なんだ?
黎の傍に居たいのに…黎は俺が疎ましいんだろうか…?
何気無く自分の首筋に手を当てる。
ここ数日、黎は俺の血を飲んではいない。
それすらも許されない、必要とされていないのかと思うと何だか泣きそうになって、きゅっと唇を噛み締める。
その時、商品棚の向こうからふと人影が差した。
「よう、アンタがコウタ?」
名前を呼ばれて顔を上げると、其処には黎より少し背が高いかなりの男前が立っていた。
「……えっと…?」
「コウタだろ?レイの匂いがする」
大股で近づいて来たと思うといきなり首筋に埋める様にして、男前が顔を近づけた。
「ちょっ!?おいっ、何すんだよっ!!」
自分の顔の直ぐ横で小さく鼻を鳴らす男前に変にドギマギしてしまって、慌てて体をずらした。
「ふ~ん…レイの奴、本当にアンタの事が大事なんだな。こんなにマーキングするなんて」
「ちょっ!はぁ?マ、マーキングって…ていうか、離れろよっ!」
それでも懲りずに俺の首筋を押さえつける様に手で支えたかと思うと、不意に濡れた物が触れるのが分かって
「ひゃっ!なっ、何をっ…」
「ん?……何だ?…レイとは違う…匂い?」
「…え?」
一瞬真っ白になっていた頭が、男前が呟いた黎と同じ言葉に急速に冷静さを取り戻した。
「何なんだよいったい!?匂いって何の事だよ?第一お前は誰だよ!」
「俺?俺はリック。レイの仲間だ」
「え?…黎の…仲間、って…」
至近距離で男前と初めて目を合わせた時、
「皓太さ…うわぁっ!?」
男前の背後から、聴き慣れた声がした。
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