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暗鬱たる気持ちを抱えたまま家路を辿る。
喉の渇きは癒えないままだ。
これがリックの言うとおり、皓太の血を飲めないでいるが為の弊害だと言うのなら、皓太の血を飲みさえすれば喉の渇きは解消されるだろう。
けれど……今の状況で、皓太に「血を飲みたい」と伝える事が俺にはできない…
今日皓太から漂った、人間の男の匂い。
その理由さえ聞けないでいるのに…
いつもの待ち合わせ場所に皓太の姿が見えない事に何だか嫌な予感がして、皓太のバイト先であるコンビニへと走って向かう。
いくら家を出る直前が険悪なムードだったとしても、一緒に帰らないなんて事は今まで無かった。
もしかして、いつだったか変な連中に絡まれていた時の様な目に遭っているんじゃないか…そんな風に考えて、全力で走った。
やっぱり、せめて家を出る時に何か優しい言葉の一つでも掛けてやれば良かった…
皓太のバイト先であるコンビニに辿り着くと、入り口を潜ったと同時に大きな声が聞こえて来た。
「何なんだよいったい!?匂いって何の事だよ?第一お前は誰だよ!」
「俺?俺はリック。レイの仲間だ」
「え?…黎の…仲間、って…」
「皓太さ…うわぁっ!?」
その声に、全身の血の気が引く思いがした。
リック?!
どうしてアイツが此処に!?
商品の陳列棚を回り込んで声がした方へと駆け寄ると、ドリンクコーナーの前で座り込んでいる皓太の腰を抱き寄せたリックが、皓太の首筋に顔を埋めている姿が視界に飛び込んで来た。
「…っ!?」
瞬間、全身の血が逆流するかの様な感覚に襲われ
「悧赫っ!!皓太から離れろっ!!」
真っ直ぐに皓太の元まで行くと、リックの首根っこを掴み皓太から引き剥がす様にしてその体を離す。
「リック!貴様、どういうつもりだ!?何で此処に居る!皓太に何の用だ!?」
「れ、黎?!」
「よう、思ったより早かったな、レイ」
悪びれる素振りも見せず片手を上げて笑う男に、更に怒りのボルテージが上がる。
「皓太!こっちへ来い!」
皓太の腕を掴み俺の胸へと引き寄せた時、皓太の鎖骨の直ぐ横が濡れているのが見えて、怒りは頂点へと達した。
「悧赫っ!!貴様ぁっ…!」
「黎っ!!」
皓太を背後に庇いリックに掴み掛ろうと伸ばした腕を後ろから優しい香りと温かな温もりに包まれて、沸騰していた怒りが急速に冷めていくのが分かった。
「黎、俺は大丈夫だから。何もされてない。だから落ち着いて」
少し潤んで艶めく双眸に見つめられて、喉の渇きが加速する。
「優希も…ご免な。驚かせちゃったな?」
その時になって初めて、俺達の直ぐ近くに立っている青年に気づいた。
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