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with you ②
その人は驚いた様に目を見開いて、でも直ぐに目を細めて鼻で笑いながら
「…ぁあ?何言ってんだ、お前……15のガキが俺を買おうってのか?」
「買うって…ただうちで少し休んだらどうかなと思って…」
「…俺みたいなのを連れて帰ったら親が何事かと思うだろうが」
「……うち、両親居ないから…」
「…居ないって、一人暮らしなのか?その歳で」
怪訝そうなその表情も、綺麗だと思った。
「事故で…ずっと婆ちゃんと2人だったけど、今は入院してるから…」
「…何処か悪いのか?」
「去年心筋梗塞で倒れて……もう長くないって、医者が…」
ごめんねと、泣きながら何度も呟いた婆ちゃんの姿を思い出す。
俺がもっと大人だったら、俺にもっと力があったら、婆ちゃんの為に何かしてやれたのに…そんな事を考えた所為か、無意識のうちに手を強く握り締めていた。
「……お前、名前は?」
「…皓太、神谷皓太です」
「皓太、肩を貸してくれないか?」
「え?」
「泊めてくれるんだろ?今足に力が入らないんだ。肩を貸してくれ」
「あ、はい…」
慌てて駆け寄り伸ばされた腕を掴んで肩へと回しながら、立ち上がる体を支える。
細身の体をしているとはいえ俺より身長は高いのに、その体からはあまり体重を感じなかった。
「あの…うち、あの角を曲がった先なんで、そこまで辛いだろうけど頑張ってくださいね」
「………黎だ…」
「え?」
「…黎が俺の名前だ」
「レイさん…綺麗な名前ですね」
「煩い、余計な事を言うな。さん付けもしなくて良い」
「え?でもそれじゃあ…」
「嫌なら構わない。俺を此処に置いて行け」
肩に回していた腕が離れ様とするのが分かって
「ダメです!……分かっ…たから…」
咄嗟に腕を掴む手に力を込め、離れかけた体を引き寄せた。
「もう余計な事は言わないから……レイ…」
「………」
何も応えずまた体を預けてくれたレイを支えながら、ゆっくりと歩く。
家へ帰り着くまでの間、花の様な蜜の様な甘い香りが隣で支えるレイから漂っていて
その香りは、まるで俺を慰めるかの様に優しく包み込んでくれた。
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