第2話

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第2話

雨に濡れた子猫が身体を震わせながらミャアミャアと鳴いている。 寒さと空腹で苦しいんだろう… きっとこの子猫は育児放棄されたんだ。このままではいずれ死んでしまうだろう。 一度家に帰り小皿とミルクを持って子猫の所へ戻った。 小皿にミルクを入れ子猫の側に置いた。 子猫はよほど腹を空かしていたのかすぐにミルクに飛びついた。 ミルクを飲み干してまだ足りないよと言わんばかりにこっちを見てミャアミャアと鳴き出した。更に小皿にミルクを追加した。 子猫の腹はパンパンになりこっちにすり寄ってきた。 子猫を抱き上げ雨の当たらない庇の下に子猫を運んでタオルで身体を拭いてやった。寒いだろうと思い子猫を抱っこして身体を擦り温める。 子猫は気持ち良さそうにされるがままになっている。 雨が止むまで子猫を擦り続けた。 そして雨が止み日差しが差してきた時に子猫を下に下ろしそっと子猫の頭を撫でその場を立ち去った。 毎日毎日学校を下校してその子猫の所へミルクや魚の缶詰めを持って行く日々が続いた。 その一部始終を清水理佳子はずっと陰で見ていた。 ある日同じように子猫の所へ向かった時に子猫が居ないことに気付きあちこちを探し回った。近くの縁の下や狭い場所有りとあらゆる場所を覗き込んでは声をかけた。 何処にも居ない…もう三時間も探し続けた。 きっと誰かに拾われたのかも知れない。 その日は諦めて家に帰った。 そして次の日もその次の日も子猫の姿を探したがやっぱり何処にも居ない。 そして諦め寂しそうにその場を去った。 「彼ね凄く優しいの。優しいんだけどその子猫を家に連れて帰ることは出来なかったみたいで…だから私が家に連れて帰って飼うことにしたの」 「えっ?それ黒崎君知ってるの?」 「ううん、知らないよ。」 「言わなかったから何日も探しに来たんじゃないの!」 「うん、そうだね」 「そうだねって…」 ほんとこの娘よくわからないわ~…事情説明してあげれば何日も心配せずに済むのに…なんていうか…ある意味恐いわ… 「てかさ、そんな毎日毎日黒崎君の行動追ってたわけ?」 「フフフッ…」 「フフフッじゃないよね?それってストーカーじゃん!ずっと黒崎君のこと見てたの?」 「フフフッ…フフフフフッ」 だから恐いって…理佳子ってこんな不思議系だったんだ… 「子猫の名前…タカって付けた。黒崎君が可愛がった猫だから黒崎君の代わりに…フフフッ」 ちょっとこの娘わからんわ~…乙女過ぎて… 引っ越しも終わり落ち着いた。 俺の部屋は二階洋室6畳間。 窓際にベッド、そして机と椅子に本棚…これだけでそこそこ圧迫感がある。 俺は清水からもらった手紙を机の前の壁に貼り付けた。 清水… ベッドの上で寝っ転がり壁の手紙をボーッと眺めている。そういや…思い返してみると、たまにふと清水の方向いたときによく目が合ったような気がするな…あのときはただの気のせいかと思ったけど、意外とそうでもなかったのかな… なんかすげぇ虚しいなぁ…あんな告白されたらあいつのこと気になってしょうがない… あぁ~清水~~~…清水のいじらしい表情が頭から離れない…手紙をもう一度手にして読み返してみる。ん?裏側が透けて一番下の方に何か小さく書いてあるのが見える… 裏返してみると数字が…もしかして…清水の番号か!?携帯の番号と思われる数字が…ウソでしょ?マジ!?これ、清水の番号!? ちょっとドキドキするなぁ~…さりげなくあいつ連絡先教えてくれたのか?い…いやぁ…話してみてぇなぁ…だけど緊張するな…てか、何を話すんだよ…手紙読んだよ、お前の気持ちわかった、ありがとうって? いやいやいや…もうこんな遠く離れたし付き合ってくれとか言いにくいしなぁ…でも…清水なら彼女として良いなぁ… あぁ~もうどうにかしてくれ!このもどかしい気持ち!俺は携帯を手にしていた…それから10分もこのまま携帯を手に握りしめている…女子か!自分で自分にツッコんでるし…俺は恐る恐る手紙に書いてある番号を押す。 ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…最後の番号を押した…後は発信ボタンを押すだけ…俺の指が震える… ハァー~~、ダメだ~~、緊張して押せねぇ…メッチャドキドキするわ…もし清水の声が聞こえたら絶対何も言えねぇよ…無理だ!無理無理無理無理!あーでもメッチャ清水の声聞きてぇ…好きだったよとか言われてメッチャあいつのこと気になる~…あーもうどうしよう~… 俺はめちゃくちゃ自分自身の心の葛藤に苦しんでいる… たかと君…手紙どう思ったかな…私の気持ちなんか伝えて迷惑だったかな…さりげなく私の番号載せたんだけど気付いてもらえたかな…たかと君…私をどんな風に見てるんだろ…凄く気になる…彼の気持ち見える力が私にあったらなぁ… たかと君…大好き…あなたの優しい声も…笑顔も…タカ… 今はもう既に大きくなった猫のタカが 「ミャァオ」 と鳴いて私にすり寄ってきた。 「おいで!」 私は両手を差し出して猫を抱き締めた。 猫のタカは私の顔に自分の顔を擦り寄せて甘えてくる… たかと君… タカと接してる時間は彼と繋がってるような感覚になる… もしもし…手紙読んだぞ!ありがとな…あの…俺も清水のこと…嫌いじゃないよ…もし良かったら…俺と…付き合わねぇか? なーんてことスラスラ言えたら良いのになぁ…清水かぁ…もしあいつの気持ち知ってたらもっと違う目で見てたなぁ…色白でわりと可愛くもあったりして… ハァ~…なかなか電話かける勇気がないなぁ… こうしてウダウダと考える時間が過ぎていく… 一方理佳子は たかと君…もし…もしほんとに電話かかってきたらどうしよう… 手紙ありがとな!俺もお前のこと好きだぜ! 俺と付き合ってくれよ! キャーッ!恥ずかしい!想像しただけで心臓が…たかとくーん…逢いたいよぉ~!今すぐ逢いたいよぉ~! こちらもドキドキタイム中だった… さっきから何回番号押してはリセットしてんだろ…もう何十回も繰り返してる… 清水に気持ち伝えたいんだけど…あと一歩勇気が…ダメだ…俺はここぞというときダメな男だ… その時いきなり電話が鳴って俺は飛び上がった。着信音…携帯に名前が…何だよ姉ちゃんかよ… 「もしもし?」 「あぁ天斗~?久しぶり~、そっちは無事引っ越し終わったの?」 3つ上の姉、美香、現在就職して他県で独り暮らしをしている。 「あぁ久しぶり…てか、いきなり電話するからビックリしたわ」 「元気そうで何より、あんた彼女出来たの?」 何だよこのタイミングでそんなこと聞いて来て…これぞ女の直感ってやつか?違うかぁ… 「いや、彼女って呼べるのは居ないよ…」 「あらそう?…いつもあんたのこと見てた女の子ともう付き合ってんのかと(笑)」 「ハァ!?何それ!そんなの居ないし…」 「ハハハハハッ、まぁあんた鈍いから気付いて無かったよね。たまに街中あんたと歩いてたら妙な視線感じるなぁとか思ったら陰からあんた見てた女の子居たのに…もう転校したからそれも一生気づかないだろうけど(笑)」 おいおいおい!姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん!何でそんなこと今更言うんだよ!それ気付かなかったから今こうしてウダウダ悩んでるんじゃないかよ! 「そんなこと知ってたの?」 「知ってたのってことはあんたも気付いたの?」 「それがさぁ」 姉に一部始終を説明した。 「あんたも女心がわからん奴だねぇ…そんなの電話して欲しいわさ!そんなんだから彼女の一人も出来ないんだわ…」 「そ…そうなんだけどさ…」 「男が何ウジウジしてんのさ!あの娘けっこう可愛かったじゃん。行かない意味がわからん!」 俺は電話を切って携帯を見つめている。そうだよな…待ってくれてんだよな…ヨシ!待ってろよ清水~! 俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる… ヨシ!頑張ろ…先ずは…何て言おう… 手紙ありがとう、清水の気持ち気付いてやれなくてごめんな…すげぇ嬉しかったよ。もし良かったら俺と付き合ってくれないか? ヨシ!これで行こう!ずっと俺のこと見てくれてたんだよな…ヨシ、頑張るぞ!気合いだ!俺は震える手で番号を押した。そして…最後の発信ボタン…いっけぇ~!ピッ… ハァーーーーー押しちゃった押しちゃった!メッチャドキドキ~~~!スゥーハァースゥーハァースゥーハァー…必死で気持ちを落ち着かせる… 一方理佳子の方は たかとくーん!たかとくーん! べッドに寝っ転がり黒崎のことを考えて枕を抱き締めコロコロ転がっていた。 突然着信音… ビクッ!驚いて飛び上がる。側に置いてある携帯がバイブしながら鳴り続けている…恐る恐る携帯に手を伸ばして画面を覗く。知らない電話番号の表示…ゴクッと生唾を飲み込み通話ボタンを押す…ゆっくり耳に当て… 「もしもし…」 弱々しい声で電話に出る… うわぁ繋がっちまった…こ、これは…やっぱり清水の声か!? 「もしもし…俺だけど…」 「………」 「もしもし…清水か?」 「………うん。」 やっべぇ~、頭のなかが真っ白になっちまった…何て言えば良いのかわかんねぇ~… 「あっ…あの…清水か?」 「うん…」 なに二回も同じこと聞いてんだよ…パニクり過ぎだろ! 「清水…………か?…」 「うん…」 だから何回確認する気だよ!落ち着けぇ落ち着けぇ! 「あの…さ…手紙ありがとう…」 「うん…」 「あの…気持ちすげぇ嬉しかった…」 「うん…」 「あの…さ…あの…ありがとな…」 「うん…」 「じゃあ、またな…」 「うん…」 「じゃなくて…」 「あの…」 「ん?」 「猫…」 「猫?」 「前に黒崎君が探してた猫…」 「え?猫?何でそんなこと…」 ハァーーーーー!あれも見てたのかよ清水! 「黒崎君が探してた猫…私が…飼ってる…」 お…お前ってやつは…どんだけ俺のこと見てくれてたんだよ! 「そ…そうだったんだ…てっきり保健所に連れてかれたかと思ったりして…でも、清水が拾ってくれたんなら安心したわ」 「うん…」 「何か困ったことあったらこの番号に電話してくれよな…」 「うん…」 「………じゃ、またな………」 「うん…」 そして俺は静かに電話を切った… てか、俺は結局何やってんだよ…結局何も言いたいこと伝えてねぇじゃん… まだドキドキしてる…たかと君…かけて来てくれた…それだけでもすっごく嬉しい…私のこと気にかけてくれた…何かあったら…電話してって… 「タカ…おいで!」 猫のタカはミャアオと鳴いて側に来た。 抱き上げてギュッと抱き締める。 ミャア~と甘えて鳴く お前のこと、たかと君に話したよ。やっと話せた…お前もたかと君のこと好きでしょ? ミャァオ たかと君…きっと覚えてないんだろうな…
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