第32話

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第32話

「それが面白いことに…伝説の男のハゲ武者だとか言われてるって…わけがわからんよな…」 そこで小山内が横から 「ハゲ武者じゃねーよ、それを言うなら落武者だ!」 薫が 「確かに落武者はイメージ的にはハゲ武者って感じだから当たらずとも遠からずだけど…どっちも違う…」 「え?違う?じゃ、何?かおりちゃん…」 「影武者…」 俺は前に駅で誰かが噂してた話を思い出す。俺が…あの伝説の男の影武者…こんな弱っちい男だった俺が… 「でも、変だよな…ここに本物が居るのに何で影武者とか言われるんだ?誰か偽物が本物のフリしてんだろ?そっちが影武者じゃねーか?」 清原が言った。 一方、天斗に破れた石田は 「アイツ…絶対許せねぇ…あの黒崎ならまだしも…何であんな雑魚に俺が…」 「石田君…」 「石田さん…あれから巷では色んな噂が…」 「うるせぇ!あのときはちょっと油断してただけだ…次はあんな奴には負ける気がしねぇよ…」 「石田君…やっぱあんたはそうこなくちゃ!」 ここは石田達がいつも集まるアジト。そこへ ガチャ… ドアが開き人影が… 「誰だ?」 「よぉ、久しぶりだな…随分派手にやられたみたいだな」 そこに現れたのは伝説の男、黒崎天斗だった。 「てめぇ!何しに来やがった!」 「いや、俺の女拐(さらって)って汚ぇ真似してどこぞの何ちゃらに敗北をきっした惨めな野郎を一目拝んでおこうと思ってな…」 「てめぇ!石田さんをそれ以上侮辱すると許さねぇぞ!」 「ほう!どう許さないのかな?」 「……………」 「お前よぉ、俺には女なんて居ねぇぞ?どこからそんなガセネタ拾ってきたんだよ…お前らの情報網も大したことねえなぁ…石田、お前の挑戦ならいくらでも受けてやるよ!だがな、俺が唯一許せねぇのは関係無い奴まで拐って汚ぇ手を使う、その泥にまみれた根性だ!勝ちゃ良いってもんでもねぇだろ?それじゃお前の名前をお前が汚してるってことだぞ?俺がただ一人認めた男がそんな小せぇ奴だったってガッカリさせんなよ…本物の男なら、仲間たちにもその器を見せてやれ!じゃなきゃ、お前の仲間が可哀想だろ?」 「黒崎…うるせぇ!俺に説教するな!お前の指図なんか受けねぇ…」 黒崎は石田の表情を見て何かを察した。 「フン、流石だな!それでこそ俺が認めた男だぜ!それだけ言いに来た…じゃあな!」 黒崎…てめぇ…なんかムカつく…何もかもが格好良すぎるてめぇが…すげぇムカつく…器を…見せる…たしかに…俺はお前にやられてから仲間たちにダセぇ所ばかり見せてきたのかも知れねぇ…俺は…弱くなっちまったのかも知れねぇ…心が腐ってたのかも知れねぇ…悔しいが…お前のお陰で…そしてあの雑魚に敗北したお陰で…見失ってたものをもう一度取り戻せそうな気がする…這い上がろう…こいつらの為にもう一度… 「石田君!あんな奴の言うこと気にする必要ねぇッスよ!」 「なぁ…次は必ず成し遂げよう…あの男の器を超えるために…今度は俺達があの男を倒す!」 「石田さん!格好良いぜ!俺達はずっとあんたに付いてくよ!」 この石田の不屈の闘志に仲間たちは惚れていた。何度打ちのめされても強敵黒崎に立ち向かう姿を…そして、石田は更なる高みを目指す… 2月に入って寒さのピークを迎える。理佳子と本田麻衣はバレンタインデーに向けてデパートへ買い物に出かけた。 「理佳子、黒崎君にね…この前、もし理佳子に何かあったらすぐに連絡欲しいって番号教えられてたの。きっと黒崎君…何か虫の知らせみたいのがあったんだと思う」 「…そうなんだ。あんなに早く助けに来てくれたのが不思議だったんだ…あのときは…凄く怖くて…もう絶対私助からないって思って…」 理佳子の中でその時のトラウマは今でも残っている。思い出すと自然と涙がわき上がる。 「黒崎君…男らしいね…私の知ってる黒崎君は、凄く弱くて理佳子を守ってやれるような人じゃ無かったイメージだったのに…」 「うん…転校してから…何かたかと君変わっちゃったみたいで…優しさは変わらないんだけど…あんなに恐い顔見たこと無かったから…」 「でも、そのお陰で理佳子は何もされずに助かったんでしょ?私の彼なんか、そういう状況だったら絶対私を助けられないと思う…私が言うのもなんだけど…顔は超イケメンだし、凄く優しい…でも、やっぱり男なら守って欲しいなぁって思う…」 「麻衣…私だってそこは感謝してる…たかと君が居なかったら、あの時私は…想像するだけで怖い…でも…たかと君が遠くに感じちゃって…」 「ねぇ理佳?たしかに黒崎君は向こうの環境で何か変化があったのかも知れない…でも、やっぱり黒崎君は黒崎君だよ?理佳子を一途に思ってるからこそ、心配して私に託したってことでしょ?」 「そうなんだけど…」 「だったら別に理佳子が心配に思うことは無いんじゃない?理佳子は全てを知ってなくちゃ気が済まないの?」 「そ…そういうわけじゃ…」 「だったら、黒崎君の全てを受け入れてあげるべきじゃん!理佳子の知ってる黒崎君も、今の黒崎君も、全部同じ人間なんだから、理佳子は全て包んであげるべきじゃない?」 「麻衣…」 たしかにそうよね…たかと君は何一つ私に対して変わった所はない…私をずっと大切に想ってくれてるし、私を大事にしてくれてる…変わったのだって、私の為にたかと君自身がいろいろ悩んで、苦労して強くなったんだもんね…それを私が不信感抱いちゃったら…たかと君がかわいそうだよね? 「そうだね、麻衣ありがと!」 「何か吹っ切れたみたいだね」 「うん、ずっと妬んでたかも知れない…私の従姉妹に…でも、たかと君は何一つ変わったわけじゃない!私に対する気持ちが一番大事だもんね!」 「ハハッ、いつもの理佳子に戻った!ヨシヨシ」 そう言って本田麻衣は理佳子の頭を撫でた。 2月14日、世の中はバレンタインデーという、女子が男子に想いを伝える絶好の機会…しかし、この日天斗達が通う学校ではオープンスクールという、言わばこれから入学予定の子達が事前に学校見学する行事が行われている日だった。この行事は秋に一度行われていて、進路選択の為に催されたが、再度進路が決まって仮登校的な希望者の生徒達の為に開かれるものだった。この日は土曜日なので学校は休校しているが、二年生の各クラスから数名ずつ手伝いとして駆り出されるのが恒例だった。小山内は、成績評価が低いため自分の内申評価を上げるために自らこの手伝いに参加した。そして薫は小山内の天然ぶりが心配で付き添いとなり、天斗も小山内の道連れとして付き合わされることになった。 「小山内…今日はバレンタインデーなんだぞ?よりにもよってこんな日にこんな面倒な行事に参加することねぇだろ?」 「黒ちゃん…俺がもし進級出来なかったら黒ちゃん寂しくねーのか?俺は黒ちゃんが居ないクラスなんて居たくねぇよ!」 小山内…お前の本心は重森の居ないクラスが嫌だってことだろ?俺をだしにすんじゃねぇよ… 「これで俺の内申が上がって有利になるなら、黒ちゃんだって嬉しいだろ?」 「はいはい、そうでしたそうでした…」 「そろそろ見学会に来る頃じゃない?」 薫が言った。そこに担任の田中先生が歩いてくるのが見えた。 「おぉ、おはよう、今日は休みのところ悪いな。宜しく頼む」 「先生!僕は内申の為なら何でもやります!だから、絶対進級させてください!」 お…小山内…それはちょっと直球過ぎねぇか? 「小山内…お前の熱い想いはわかるが、もう少し頑張らないとちょっと難しいぞ。でも、最近お前少しテストの点数上がってきてるな…頑張りは先生も評価してるぞ!」 そりゃそうだろうよ…いつも上手いこと重森がテストの度に小山内をサポートしてるんだからな… 「はい!先生、俺凄く頑張ってますから…だから絶対に…」 「わかったわかった。まぁ、今日のお前の頑張り次第でちゃんと考えておくから…」 「はい!先生、俺頑張ります!」 その時職員室の方へぞろぞろと中学生達が歩いてくるのが見えた。 「おっ!早速お見えになったぞ。くれぐれも恐がらせ無いようにな!」 「はい!上官!」 天斗達の他にも各クラスのお手伝いが集まってきてお互い挨拶を交わす。 「宜しくお願いしまーす。宜しくお願いしまーす。」 「はい、おはよう、宜しくねぇ~」 そして各クラスの協力者が役割分担をして部活動や、教室、それぞれを人数を割って案内する。天斗、小山内、薫は部活動案内に見学者達を引率し歩き出す。 「ねぇねぇ、あの人だよ…黒崎さんって噂の人…」 「だよね、だよね?すっごいドキドキする!」 「本物だよ、本物…」 「ここに来るのが待ち遠しい…」 「私、強い人大好き…」 「あの人凄く優しいんだって…」 「なぁ、後ろ随分ザワサワしてんなぁ…もしかして…俺のこと…」 小山内はありもしない自分への視線にニヤニヤしていた。 時はさかのぼり2月13日の夜 「あっ、おばさん?理佳子です」 「あらぁ、理佳ちゃん久しぶりねぇ~!元気だった?」 「はい、おばさんはお変わり無いですか?」 「ありがとう!理佳ちゃんはほんとに可愛いわねぇ~」 「あの…おばさん…明日、たかと君には内緒でそっちに行こうと思ってるんです…あの…サプライズでバレンタインに…」 「まぁ!なんて健気な…理佳ちゃんのそういうところ好きよ!」 「ありがとうございます。では、明日宜しくお願いします」 「はいはい、おばさんも楽しみにしてるわ!それじゃあね」 「お休みなさい、おばさん」 「はい、お休み」 そしてバレンタイン当日午前11時 ピンポーン 黒崎家の家のチャイムが鳴り天斗の母は玄関を開け理佳子を出迎えた。 「こんにちは、おばさん!」 「こんにちは、よく来たわね!さぁ上がってちょうだい」 母と理佳子はリビングのソファーに腰をかける。 「理佳ちゃん、ごめんねぇ…天斗は今日、突然学校に出かけちゃったのよぉ~…何でも新入生を迎える為の行事だとか言って…多分そんなに遅くならないとは思うんだけど…理佳ちゃんのことを言うわけにもいかなかったから…」 「そうですか。でも、おばさんが居るから全然大丈夫ですよ!」 「あらぁ…もうおばさん嬉しくて嬉しくて、涙が出ちゃう!」 そう言って二人は笑った。 「あの、これ良かったら…」 そう言って理佳子が差し出したものは地元で有名なケーキ屋さんの人気商品だった。 「あらぁ!これおばさん大好きなのよ!懐かしいわぁ。ありがとう!後で皆で頂きましょ!」 二人はしばらく女子トークに花が咲いた。 「あぁ、楽しい!理佳ちゃんと居るとおばさん一日中飽きないわ!」 「私もおばさんと話すの楽しいです!」 「ありがとう、こんなおばさんにそんな嬉しいこと言ってくれて、理佳ちゃんほんと優しいわね」 「おばさん、私のお母さんもたかと君のことを凄く気に入ってて、たかと君ならって言ってます。たかと君優しいし、人当たりが良いから…」 「ねぇ…理佳ちゃん…正直…天斗と…将来のこととか考えてくれたりするの?」 「おばさん…それは…私も出来ればたかと君以外の人は…考えたくありません…でも、たかと君のことは…私には…」 「天斗はねぇ~…男だからあんまりそういうことは口にしないけど…親だからわかることがあるの…あの子ねぇ………」 天斗の母はニヤニヤしながら理佳子を見つめて 「理佳ちゃん以外に今まで全く女気がなくて…あの子はてっきり女の子には興味が無いのかとさえ思うこともあって…でも、あの子の目を見てると人生で初めて生きる目的を見つけたような…心の底から理佳ちゃんのことを一途に想ってるんだと思うの…」 「おばさん…本当にそうでしょうか?もしそうだとしたら…凄く嬉しい…」 理佳子は胸が熱くなるのを感じていた。たかと君…大好き…早く帰って来て…早く会いたい…
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