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そのときテーブルに近づく人の気配がしたので店員さんタイミング悪いなあと思いながら顔を上げると見覚えのあるかわいい部類の女が立っている。
「先輩、ごめんなさい。」
「雅樹…若奈って太田若奈なの?」
太田若奈は、フットサルサークルのニ年後輩で、優菜たちが付き合い出した頃は一年生だった。
雅樹の横に当たり前のように座り、若奈がオレンジジュースを手元に動かしているのを見て、2人で一緒に来て、優菜が着いたときはたまたまトイレにでも行っていたんだと理解する。
「若奈がうちの会計年度職員で今年入って来て再会して、それからよく一緒にメシ行ったりするようになって…その…」
「そうなんだ。私が仕事で忙しいから会えない間に若奈と…なんで別れてから付き合わないかな。」
「優菜と話したくてもなかなか時間が取れなかったじゃないか。」
「それでも…もっと前に言って欲かったし、ふたりの記念日のイブに待ち合わせまでして言う話じゃないわよ。」
「優菜のそういう自分が忙しい事を肯定して、相手を責めるとこが苦手だった。じゃ、俺たち行くから。」
「先輩、本当にごめんなさい。」
立ち上がった雅樹にくっついて、頭を下げた若奈の顔が一瞬、勝ち誇った笑みを浮かべているのに気がついた優菜は、唇を噛み締めた。
《どこが雅樹がいないとダメなのよ。あんなあざとい女に引っかかって…馬鹿みたい。私たちの5年ってなんだったんだろう。》
「お待たせしました。」
ひとりになったテーブルに置かれたカフェオレに口を付ける。
「熱っ。なんなのよ。」
優菜は、溢れて来た涙をカフェオレが熱いせいにして、文句を言う事でやり過ごしていた。
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