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店内は、クリスマスツリーが控えめに飾られていて、それだけが今日が何月何日かを主張しているが、静かに流れるのはジャズナンバー。
クリスマスらしくないのが、いまの優菜には嬉しかった。
「モスコミュールを」
カウンター席に座り、目の前のバーテンダーに注文する。
優菜は、ひとりでバーに行くタイプではなかったし、普段ならこんな飲み方をしない。
でも今日は、もうなんでも良かった。
飲んで嫌なことを忘れたい。
ついついペースが上がり、ぽおっとしてきた頃に優菜の隣の席に人の気配がして、横を見た。
スーツ姿のすらっと背の高い男が、笑っていた。
「おねーさん。一緒に飲みませんか。」
男の胡散臭さになんとなく警戒して断ることにする。
「ごめんなさい。そんな気分じゃないから。」
「そんな事、言わないでさぁ。」
「悪い。待たせすぎたか。」
後ろからかかった声に振り返ると明らかに上質なスーツに気の強そうな眼が印象的な男性が立っていた。
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