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「また、見られてる……」
雑踏の中で、紫穂は呟いた。
「えっ、なんか言った?」
隣に歩く梨果が聞く。
「見られてるの、ここのところ、ずっと……」
紫穂は、こめかみを手で押さえながら、答えた。
色白の手に、長い黒髪が降りかかる。
「それって……例の『アレ』?」
「うん……」
沈んだ紫穂の表情に、梨果は、はぁ、と溜め息をつく。
「いい加減、しつこいね。一種のストーカーじゃん!まあ、私は見たことないけどさ……」
「私に固執してるみたい…。学校に行く時も、休み時間も、帰る時も、帰ってからも………。ずっと、私を見てる……」
「そこまでいくと、怖いよね……。いや、そこまでいかなくても怖いか……」
梨果は、何かを探すように、辺りを見回した。
「でもさ、そういうの、紫穂ならさ、何とかなんないの?」
梨果の問い掛けに、紫穂はゆっくりと、首を横に振る。
「例え見えても、私にはそこまでの力はないのよ……。それに……」
紫穂はどこか悲しげな瞳で、数メートル離れた場所に立つ、制服姿の青年を見つめた。
「彼自身が、気づかなきゃ駄目なのよ」
もう、
亡くなっているということに……
この世の全ては、
儚いものばかり。
季節は止まらず、
移ろってゆくように。
君のその瞳と
この淡い恋のように……。
君の悲しそうな微笑みが
僕を引き寄せて離さず、
こんなにも、君でいっぱいで、
まるで終わらない夢を見ているようだ。
いつか君に触れたい。
触れたいんだよ……
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