第二章

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第二章 師匠 9 暖かい煙の様な物がそっと鼻腔をくすぐる。 タンタンタンと言う規則的なリズムがさっきから聞こえてきた。 ひんやりとしたテーブルに頭を突っ伏して私は今寝ていた。 「嬢ちゃん、嬢ちゃん……….」 何やら声が聞こえる。 誰だろうか。 「嬢ちゃん嬢ちゃん…………..」 今度は体を揺さぶられた。 私は朧げな意識を段々覚醒させる。 顔を上げると、目の前にあったのは……… 美味しそうに湯気を立てる料理の品々だった。 ふおぉぉお! 凄く美味しそうである。 「嬢ちゃんやっと起きたか……冷めちまうから早く食べよう。」 待ち侘びた様に言うおじさん。 どうやら私は料理を待っている内に寝てしまったらしい。 私の目の前には、サラダと黄色い豆?がペースト状になったクリーム、パンやジャガイモなどが入っているバゲットが置いてあった。 「そのクリームみたいなのが美味しいぞ!嬢ちゃん。塗ってごらん。」 おじさんにそう言われたので恐る恐るパンをクリームにつけてみる。 そして口の中に運ぶと、思いっきり噛んで食べた。 この世界の食事マナーとか知らないので、もう何となく。おじさんや、マスターに対して失礼になる事をしているかも知れないが、分からないので日本式で食べます。 豆の風味が口の中に程よく広がり、それにパンの優しい甘みが広がって美味しいですね。 モグモグと噛み締める様に食べつつも、隣に座るおじさんをチラリと見る。 おじさんは、ピザの様な形の丸いパンに、肉や野菜が乗っている物を無言で食べていた。 その後も、おじさんは一言も喋らずご飯を終えて満足したのか…寝た。 子供かっ!ってなるが、確かにあのドラゴンに乗るのは体力的にキツい。 仕方ないだろう。実際、私も眠いし。 寝言で、「マスター、美味しかったゼ….」とかって言っている。 私も寝たいな…………満腹になったからか、疲れはほぐれたのだが。 あと、おじさんが寝ている内に代金を払おう。 「あの、マスター。先に代金払っても良いですか?」 「良いですよ。代金は、貴方と、カリビア含めて全部で1リドです。」 1リドか。そうだな、おじさんタダで竜車に乗せてくれたし。 仕方ないな。此処は奢ろう。借りは返す、ってヤツだな。 「はい」 マスターに代金を渡す。 「あの、カリビアさんが起きるまでこの店にいても良いですか?」 どうせなら、最後おじさんに礼を言ってから別れたい。 「良いですよ。くつろいで行って下さい。」 ありがとうございます、と言うとマスターは笑った。 その顔を見ていると思ったことがある。 今まで少しツッコミたかったのだが、王城の門番さん、マスター、その他諸々の王都にいた人達。商人ギルドの図書館受付令嬢。おじさん除いて。 おじさんに会った時少しほっとしたのだ。 だって皆みんな……… 此処は少し虚しくなるので言い換えよう。 ………………この世界、イケメンと美女多いんですね。 まぁそんな事は、置いて。 今はおじさんが眠っている間、図書館で借りた本でも読もう。 私のスキルに記憶のスキルがある。 スキル使ったらお腹空くんじゃないかって? 大丈夫、このスキル常時発動だし、そんなに体力とかも削らない。 いわゆるチートって奴なのだ。 文字はこれもまた常時発動の言語翻訳を使って読む。 さーて、今の内に魔術の基礎ぐらいは押さえておこう。 分厚い本をリュックから取り出して眺める。 ふんふんふんふん……… 数時間後…………… 「わりぃ寝ちまった。嬢ちゃん今何時だ?やべえ早く行かないと、取引先と上司に怒られる!」 「マスター代金は?」 「"嬢ちゃん"が払いましたよ。」 「嬢ちゃんありがとう!!この借りはいつか返す!!!」 カラン、(店のドアを開けておじさんが出て行く音) 「嬢ちゃんじゃあな〜!!!!またいつか会おう!!!!!!!!!!!!」 嵐の様におじさんは出て行った。  取り残された私はおじさんに向かって小さく、「竜車の件、ありがとうございました…」 とかろうじて言った。 ブンブンブンブンと、暑苦し…..じゃない情熱的に手を振って出て行くおじさんを見ると、親近感を持つのは何故だろうか。 私も小さく手を振り返すと、読みかけの本を仕舞いイスから降りる。 「じゃあマスター、私も行きます。美味しかったです。また食べに来ますね。」 「そうですか。よかったです。もう夕方なので魔物には気をつけて下さいね。」 マスターに夕方、と言われて店内を見ると、小さな窓からは西日が入り、オレンジ色に染まっていた。 客はもう帰ったのか、マスターと私しか居ない。 「はい。マスターもお元気で。」 木のドアを開けて外に出る。 生暖かい風が私を包み込むように吹いていた。 魔女様の居場所は分かっている。地図を図書館で買った。 霧の濃いバビロン北門出て直ぐだ。 何でか知らんけど、近づく人は居ないらしい。洋服屋さんで仕入れた情報では、 行って生還した奴は ”本物の馬鹿” ”ある意味英雄”とかって言われるのでジョーク混じりに行った奴が酷い目に遭ったとか亡くなっただとか……… 何か怖気がしてきたぞ。 今は恐怖心が無いのに不思議だ。 まぁちょっとしたピクニック気分で行きますか。夕方になってくると魔物の出現も多くなるらしいので気をつけないと。 まだ魔物と言っても、ドラゴンしか見た事ないからな。どんな攻撃とかしてくんのかとか。 図書館で魔物図鑑借りて読んだけど、あの情報あってるか分からないし。 1番の問題は、私が弱い事である。 冷水ぶっかけるぐらいしか攻撃できない。 あとは…ナイフ投げるとか? さてと。色々準備もしたし、魔女様に会いに行くか。
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