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第二章 師匠12
目が覚めると朝になっていた。
実際に、今が朝かどうかは解らないが、
朝になったと感じるのは周りが明るくなっていたからである。
昨日とは違い、ランランと輝く苔達によって壁側は凄まじい光を放ち、明るく湖を照らしていた。
そのせいで、壁の方を直視出来ない。
と言うか、前が見えない。
よいしょっと起き上がると足や手から凄まじい痛みがほとばしる。
この感じ……絶対筋肉痛である。
引きこもりが無茶をするとこうなるので、今度からは気をつけよう。
ふと、確か何日か体を洗って無い事を思い出す。草と土埃を払い、腕を嗅いでみた。
うっっ…………ちょっと………
女子としてどうなのかと思われる匂いが漂う。
数日洗って無いだけでこうなるって何だろな…と思った。
実験として、手から水を出す。
そのままビシャッと隅々まで被り、汚れごと水を手の平に集めるイメージをしてみた。
段々と汚れらしき物が集まってくる。
それを上にある泥沼に捨てると、再度腕を嗅いでみた。
あーー、うん。
汚れは集まるけれど、匂いは無理な様ですね。
少しさっぱりとした所で、筋肉痛だらけのバキバキな体をなんとか起こして立ち上がる。
さてと。
魔女様に会いに行くか?
どうする?「私」。
昨日のアレ、凄く気ならないか?
…………暫く沈黙した後、何も案が無かったので渋々会いに行く事にした。
仕方ない、行くか………
重い足を引き摺る様に動かしつつログハウスドアまで近づいていく。
危険察知は反応なし。良かったよかった。
ノックする…….?
まぁいっか。
ピーンポーンのチャイムも無いし。
そっとドアノブに手を掛けて捻ろうとした所で……
カツッと音がした。
嫌な気配がして慎重に首元を見る。
鋭そうな銅色の刃と、古びたダークブラウンの取手が特徴的な草刈り鎌がその存在を誇張する様にキラリと光った。
耳元にふっと息が掛かる。
「人様の家に何か御用かい?それにしてはノックもしないなんて礼儀がなってないねぇ。やり直しだよ。…..」
酷くしゃがれた声が、辺りに反響するように響く。
ドクッドクと心臓が本能的な部分で危機を察知し高鳴った。
その音を鎮める様に言葉を紡ぐ。
「それは失礼しました、魔女様。やり直しします。」
ドアノブから恐る恐る手を離しノックした。
すると、首元にあった異物が取り除かれる気配がした。
「貴女に用事があって来たのですが、話を聞いて頂いても宜しいでしょうか?」
硬直した筋肉を解すように後ろを向く。
………さっきまで声がした筈なのにそこには誰もいなかった。
「あぁ、わかったよ。私に何か用があるのはよぉーく分かった。ならさっさと家にお入り。ノロマだねぇ、あんた。」
この魔女様性格悪い?
そうふと考えた瞬間、首元に草鎌が設置される。
あ、あかんあかん。下手に何か考えると読心されて首がとびそうだ。
「失礼します…..」
小声でそう言うと、ドアノブを捻り中に入る。
中に入った瞬間見たのは、明るいブラウンの寄木でできた床と蔓の様な紋様が入った緑と白のコントラスが美しい壁。
入ったらすぐにリビングに繋がっているらしき扉の無い廊下とその奥に見える大きな竈門。
リビングには涼し気な瑠璃色の紫がかった絨毯が敷かれていた。
妙に明るいと、上を見上げるとぶら下がっている幾何学模様のランプがある。
今私が立っている所は玄関らしく、黒石とコンクリートを混ぜ合わせた様な作りになっていた。
隣を見れば真四角の靴箱らしき者があった。
配色とか、そう言うのに関して疎い私でも分かる程のセンスの良さ。
魔女様はオシャレな物とか、アンティーク系が好きなのかな?
「本当にトロいねぇ、ぼーぉっと立ってないでお上がりよ早く。あぁ、靴は脱いでその箱の中にでも入れておいてくれ。」
また耳元で魔女様らしき人の声がしたので急いで靴を脱ぎ言われた通りにする。
そして……
「言われた通りにしか出来ないのかい?あんたは。考える脳みそがあるんだったら行動に移しなよ。」
今やろうと思ってたの!
言わないで!
そして廊下を歩きリビングへと到達する。
リビングの床は寄木から白濁色の大理石へと変貌を遂げていた。
ぐるりと玄関からでは見えなかった部分を見回すと、横に置いてあったソファーに何か違和感を感じ目を凝らす。
麻でできた茜色のソファー。
肘掛けの所だけ黄金色の光る繊細な刺繍が施してある。
フカフカしてそうなカラフルなクッションが3つ並び大きさは人一人軽く寝そべるぐらいの大きさだ。
現に人が寝そべってるし。
特に違和感を感じる所は無さそうだ。
気のせいだったのだろう。
次は………『って私ちょっと待て。』
『人が寝そべっていた』どう言う事だ?
つまり…………
それは…………………
結論づけるより早く気配探知を発動する。
『誰も引っかからない?』
昨日はひっかかったのに?
なぜ?
わざと?
冷たい汗がツツーと額を伝った。
あそこにあったのは人形?
ドクドク
そんな訳ない。だってあんなに精巧な人形はある筈が……
『能面くん』と『顔面くん』
頭をよぎったのは王家の家宝だとか言うあの人形。
でも矛盾している。
ならなんで…けはいた………
あれ?なんで………さっき見た筈の『人の顔を思い出せ無いのか?』
ドクドクドク
アレ、魔女様なのか?魔女様なのか?
気配も無い、音もない、存在感もない。『死んでる』
なのに動いている。
気配探知とは言えど、その能力は気配だけでなく生きているかどうかの識別によっても効果は発動される『筈だ』。
ドクドクドクドクドクドクドクドク
じゃあ、じゃあじゃあ………………!!!!
「いちいちギャーギャー煩い子だねえ、黙らんかい。私がいると気づけたのには及第点をあげよう。だけど、人様の家をジロジロ見るのはどうなのかい?」
音もなくその人はソファーから降り立った。
ソファーの反対方面を見ていた私の顔を覗き込む様に見つめるその人は……………
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