第二章

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第二章 『私』 私は目を開ける。 目を開けると、知らない大広間。 やっぱり目を閉じたり開けたりしても、夢は覚めない。 私はさっきまでお姉ちゃん達と学校から下校していた筈だ。 でも変な光に包まれて、気づいたら此処にいた。 どうして私は此処にいるんだろう。 分からない。 王女様を名乗る人が勇者だの魔王だの言っている。 正直,怖い。 訳がわからない。 勇者、魔王って何? 家に帰して欲しい。 女王様が質問はないか、と聞いてくる。 質問したい事は沢山あった。 だから、恐る恐る手を挙げる。 「あの……何で私は此処にいるんですか?」 単純な,質問だ。 でもそれが、私には分からない。 此処に来る前お姉ちゃん達は女神様に会っているらしい。 でも私は会っていない。 説明も、何の前触れも無く此処に来た。 もしかしてドッキリかな? そうだったら嬉しい。 でも現実は甘くなかった様だ。 「お主、此処に来る前女神様から話を聞かなかったのか?」 女神様から話は聞いていない。 「は、い。 そもそも、女神様って誰ですか………… ?」 そうすると女王様は訝しげに私を見つめる。 赤い、紅蓮の様な瞳が細まった。 「もしかしてお主は『巻き込まれ』か…?」 巻き込まれ………? それってどう言う事……………? 私は何かに巻き込まれたの? 思考回路が、私が今置かれている状況に対して追いつかない。 そうしていると、お姉ちゃんの友達じゃない見知らぬ男子中学生が叫んだ。 「おっ俺も! 俺も女神様には会ってない!! 何か変な光に包まれたと思ったら此処にいた!!!!」 この人もなんだ…………… 私一人が『巻き込まれ』たのではないんだ。 少し安心する。 でも、巻き込まれたって何に? お姉ちゃんは驚愕した顔で私の顔を見る。 そして同時に納得した様な顔になった。 「通りで椎菜…………女神様と会った時いなかったのね。」 その言葉に対して騎士の様な服を着た人達が驚いた様に反応した。 王女様は頭を抱えている。 ざわめきが周囲にいた長いローブを着た人達から伝わる。 何やら話しているみたいだ。 さっきよりも、とても張り詰めた空気が漂う。 なんでだろう。すっごく不安だ………… 「お姉ちゃん、これドッキリ? 私、家に帰れるんだよね。 これは何かの番組か、もしかして夢とか?」 気づけば、そんな事を言っていた。 戯けた口調で、不安を紛らわす様にそんな事を言う。 お姉ちゃんも急にそんな事言われても困るだけだろう。 だが、聞かないと不安に押し潰されそうな気がしてそう言った。 話す声が震える。 手も全身が震えていた。 どう言う状況に今自分が陥っているか本当に分からなくて。 嗚呼、でも大丈夫だよねお姉ちゃん。 こんな非現実みたいな事は起きない。 お姉ちゃんが召喚されて、私はそれに巻き込まれて。もしかしたら、家に帰れないかもしれなくて。明日からどんな生活を送るかもわからない、そんな事になってないよね。 明日になれば、家に帰って普通に学校に行く。 そんな平凡な生活が私には待っている筈だ。 「ねえ、そうだよね、お姉ちゃん!!!!」 フルフルとお姉ちゃんは頭も振る。 少しお姉ちゃんも震えていた。 そうだよね、お姉ちゃんも不安だよね。 そんな事をぼんやりと考えながら、その場に棒立ちになる。 「う、嘘………」 声が、私の口からまた溢れた。 気づいたら私は駆け出しているようだった。 後ろにあった扉に向かって。 何かを否定したくて、バンッと扉を開ける。 私の眼下に広がる世界は…………… 見慣れた東京では無く、知らない世界が広がっていた。 ペタリと何かが床に着く音がした。 視界がガクンと下がる。 床に私はしゃがみこんでいた。 「と言う事は、お主ら二人スキルや魔法適正を何も持っていない可能性が高いな……… 勇者パーティとは別行動となるか。」 女王様が何か言っている。 「すまぬな,お二人方。 どうやら、誤って召喚してしまったらしい。 勿論、勇者達と同じ待遇で扱おう。 戦闘には不向きだから、城で勇者達を待つ事になるだろう。」 そんな声も私には殆ど聞こえなかった。 状況や頭を整理すると、私はどうやら異世界召喚とやらに巻き込まれて、魔王を倒さないと帰れないらしい。 ああそうなんだ。 何で私を巻き込んだの? 絶望感に包まれたままこれが現実だと信じられずに只々いた。 支給された保存食と、お金、そして生活必需品だと言う物を貰い、やけにだだっ広い部屋に案内される。 無理矢理支給品を全てクローゼットに押し込む。 これらはあとで整理しよう。 他の家具等は頼めば貰えるらしいが、そんな気も起きない。 何もする気力も無くなってベットにしゃがみ込んで縮まった。 帰りたい。 私の願いはそれだけだ。 なんと言うか、かんと言うか。 今の気分は……………… ーー疲れた。 だから、『私』は私に変わろう♪ やけに軽快な声が頭の中で響く。 “私”は絶望してないんだね。 私みたいに”私”は弱くない。 どちらかと言うと、強かだ。 じゃあ,”私”に変わるか。 顔を枕に押し付ける。 硬い。 でもまぁ、いいや。 私が私である方が時間の無駄だ。 私はきっとこのままだと何もしない。 ずっと、この空っぽな部屋に閉じ籠っているだけだろう。 沈んで行く。 意識が。 悲壮感と言えばいいか、虚脱感と言えば良いか。 そんな感情に包まれた気がして。 そのまま私は、 目を閉じた。
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