第二章

6/14
前へ
/17ページ
次へ
第二章 師匠4 「はあっはあはあ………」 息が切れる。 やっとあの暗くて陰気な森を抜けて私は、王都メディアに来ていた。  人が沢山いる。 王都は思った以上に賑わっていた。 市場の様な屋台が道に立っており、美味しそうな匂いが彼方此方からしていた。 所々に 祝 勇者召喚 と書かれている暖簾何かかっている。 勇者召喚って今日あったばかりなのにここまでその出来事が広まっているとは予想外だ。 行き交う人々の顔も、思った以上に明るく陽気だった。 取り敢えず、朝から何も食べていないのでお腹が空いた。 屋台で何か買って食べようと思い,のろのろと歩き出す。 王城は此処から見える程近く、森もそんなに整備されて無くて走るのがキツい訳では無かったが、引きこもりの私にとってはかなりの重労働だった。 その代わり、ステータスを見ると体力値が上がっている。 にしても,何を食べようか。 屋台は細長いパンの様な物や、たっぷりとチーズがかかったジャガイモ、他に果物をゼリーに閉じ込めたかの様な物もある。 見慣れない料理も存在していた。 思わずキョロキョロと辺りを見回すと、美味しそうにパンを食べている人がいた。 それを見ていると、 グーとお腹が鳴った。 お腹を満たす物が良い。 と言うかもう何でも良いから食べたい!! 私は直ぐ側にあったパンに肉や野菜を挟んだ、サンドウィッチのような物が売っている屋台までフラフラと歩んで行った。 「これ、1つ下さい。」 板に書かれた粗雑な文字を指さす。 多分メニューだと思うんだがあってるだろうか。 かろうじて言語翻訳のスキルが発動したのか、 ”ターイア” と書かれているのがわかる。 「あいよ。 1つ6ホルだ。」 愛想の良さそうなおばちゃんが答えた。 聞き慣れないお金の単位が出てきたので少し驚く。 待て。慌てるな私。 適当に答えよう。 そうだ、1リド1000円だから…… 「1リドでお釣り貰って良い?」 そう答える。 「ピッタリ持っていないのかい?仕方ないねぇ。大丈夫だよ。」 貴重品だらけなので、ポーチの中身は見えないように工夫してリドを出した。 そしておばちゃんに1リドを渡す。 「はいよ。釣り銭だ。」 銀色の硬貨の様な形をしたリドよりも、濁った色の歪な形の硬貨を4枚渡される。 多分これが4ホルかな? 1リドが日本円で1000円だから1ホルは100円か。 って事は”ターイア”は実質600円くらいか。 そうしていると、不意におばちゃんが味付けを聞いてきた。 「カリアとリックラどっちが良い?」 よく分からないので適当に答える。 「カリアで。」 そう答えるとおばちゃんが笑った。 「お客さん通だねぇ。その髪色からしてバビロアナ人だろう。この店を選ぶバビロアナ人はあんまりいないからね。珍しいよ。 もしかして、出身はエジリアだったりするのかい?まぁいいや。はいよ。熱いから気をつけて食べな。」 どこの国ですか……バビロアナって。 取り敢えずおばちゃんに礼を言い、ターイアを受け取る。 少しまた歩き、ベンチに座ってターイアを見た。 包んである紙を指で割くと香ばしい匂いが辺りに漂った。 ターイアは、薄焼のパンに厚切りの肉やコロッケ、レタスが挟んであった。 厚切りの肉からは肉汁が滴り、コロッケからはカレー粉に似た何とも言い難い美味しそうな匂いがする。 刺激的な香辛料の匂いは、空きっ腹には何とも魅惑的だった。 勢いよく噛み締めると、 シャキッとしたまだ新鮮なレタスが蕩けそうな肉と合わって何とも言えない幸せが口に広がる。 肉汁が口の中で暴れ、カレー味のコロッケもそれに組み合わさるとしつこくない、でもとても濃い濃厚な味わいになった。 モチモチとしたパンもとても美味しい。 気づいたらターイアが手元から消えていた。 口の中の余韻を噛み締め、私はベンチから立ち上がる。 腹も満たされた事だし、バビロンについて聞くか。 歩いていると街並みが目に入ってくる。 お腹が好きすぎて気にならなかったが、とてもカラフルな家々が建ち並んでいた。まさに異世界って感じがする。 私が住んでいた東京もオシャレな家が多かったが、此処までではなかった。 灰色の石畳に、たまに走り去る馬車。 街角から聞こえてくる陽気な音楽。 何もかもが新鮮だ。 もう少し通りを歩くと次はお店が建ち並んでいた。 屋台の時とは違い、こっちは装飾品や衣類を売っているようだった。 バビロンについての情報は後回しでいっか。 まずは観光。 いろんな店を巡るとしよう。 1番初めに見たいのは洋服店かな。このワンピースは動きにくい。 なるべく安そうな、そして地味そうな洋服が売っている店でも探そうと軽くスキップを踏みながら王都を眺めた。  …あとついでにバビロンの情報収集っと。 頭の片隅にそんなことを思い浮かべつつもそこら辺にあったお店へ入る。 カランっと木のドアを開いて店に入る。 店員さんの「いらっしゃいませ」と言う声を聞きつつ私は思った。 でもまぁ、今はこっちを楽しみますか。 …………………………………………………… 町外れにある小さなこじんまりとした店、大通りにある大きな店。 騙されそうになったり、たまに貴族専用店などに行ってしまい、追い出される事もあったが、中々に面白かった。それに良い経験にもなったな。 楽して異世界生活をするのが目標なのに、なんでこんな事に初日からなっているのだろう。 本当に不思議である。 しばらく王都で買い物を楽しんだ後、私はお店の人に聞いた情報を元に馬を借りれる商人が集う集会所に行った。 馬は乗れるかどうか分からない。 と言うか、お金的にも身体的にも無理な気がする。だから頑張って商人達の荷馬車に乗り込むつもりだ。 バビロンは冬の王宮とされているそうだ。 今は夏なので行き交う商人の数は少ないらしいが、王宮をぐるりと囲む市場は夏でも賑わっているので、バビロンに行く商人が必ずいない訳ではないと言うことだった。 バビロンにはおおよそ最速1日で行ける。 案外近いと思ったら、そうではないらしく竜車に乗らないと無理だと言うことだった。 馬車だと90日程かかるらしい。 どんだけ早いんだ竜車は…..っと私は思った。 それにこんな話も聞いた。”竜車は乗るのに度胸がいる”と。 何にしろ速すぎて乗ってる途中に吹き飛ばされて亡くなった人がいるらしいとかいないとか。 他にも竜車は目的地に着くまでノンストップで走り続けるので休めない…とかって言う噂もあるそうで。 だけど私はなるべく早くバビロンに着きたいので選ぶは竜車だ。 覚悟を決めよう。 拳をギュっと固めつつも私は集会所へと足を運んだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加