第二章

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第二章 師匠5 薄暗い洞窟のような程暗い室内に、煌めくランタン。 煙草や煙管の匂い。絶え間なく続く声。 私は商人達の集会所…商人ギルドへ来ていた。 ギルドの存在は来て始めて知ったので、冒険者ギルドもありそうで胸が躍る。 商人ギルドの周りは大きな木の建物が連なっているようだった。 煉瓦と石で出来た壁にドーム型の天井を支える巨樹。 一階と2階を見渡せる構造なので、商人達が何をしているか直ぐにわかる。 2階には本棚がずらりと並んでおり、ぎっしりと本が詰まっていた。 2階は一応公共図書館の役割を果たしているらしく、私は魔術についての本を4冊借りた。 それ等の本は街で買った大きめのリュックサックに丁寧に入れておく。 誰でもすぐに借りれるので、 借りた本は盗まれたり売られたりしないのか、と思ったいたのだが なんでも5日以内に返さないと罰金な上、借りた本には探知機が付いているから盗まれたりする心配は無いらしい。 しかもこの探知機は絶対に本から剥がせないそうなので、しっかり返そうと思った。 破壊や破損した場合も、探知機が図書館に知らせるので、必ず弁償代を取れる仕組みになっているそうだ。 弁償が嫌で本を置いて逃げた場合も、借りた対象に呪いをかけられるらしい。 ………探知機が。 何でこんな素晴らしい技術を他に応用しないのか不思議だった。 そんな事を貸し出しカウンターのお姉さんが誇らし気に教えてくれた。 商人ギルドは、商人同士の商談の場として利用されるらしい。 他にも、商人ギルド通しての商談は相手に信用される事が多くだからなのか、この建物には様々な服を着た人達が行き交いしていた。 たまにお酒を飲みつつ商談をしている人もいる。 歩きつつも商人達の様子を私はずっと見ていた。 勿論、目的はバビロン行きの竜車である。 だが、どうすればその竜車を見つけられるかも分からず彷徨っているのである。 仕方ない。誰かに話しかけて探すか…… そんな私にポンッと手が置かれる音がする。 驚いて後ろを見ると、人の良さそうな見た目のおじさんがいた。 「嬢ちゃん。さっきからここら辺を行ったり来たりしてるけど、どうしたんだ?何か困り事でもあるのか?」 おじさーん!! ありがとう、声かけてくれて。 ちょうど困り事があるんだ!!! 「えぇと…..バビロン行きの竜車を探しているんだけど、見つからなくて…迷ってたんです。知っていますか?」 すると、おじさんは軽快な音をたてて笑った。 「おぉ偶然だね。俺は今丁度、バビロンに竜車で向かおうとしていたところだよ。一緒にくるかい?」 本能で直ぐに即答する。 「良いんですか?ありがとうございます。」 なんだと!! 何か都合が良すぎる気がするけれど、これに縋るしかない…! ついてきてくれ、とおじさんが言ったのでついていく。 良い子は知らない人について行っては絶対に駄目だよ、っとかって小学校で習ったけれど此処異世界だしまぁいっか。 着いたのはおじさんと商人ギルドから出てすぐに馬車だのなんだのが置いてある場所だった。おじさんはくるりと振り返ると、指を空に向かって指差す。 「あそこに竜車を止めてある。だから今竜を呼べば竜車が来るが…お嬢ちゃんは一体どんな用があるんだい?竜車に。バビロンにいる誰かに届け物かい?此処で商談をしよう。」 “商談”か……… って事はやっぱタダでは行かないか…….. 仕方ない。 流石に空に浮いているものに乗り込もうとするのは無謀だ。 と言うか空に浮いてるってどう言う事だ? ちょっぴり不安になってきたぞ…… 顔を真顔にする。 「届け物です。」 「成る程ねぇ。お嬢ちゃんは何を届けたいんだい?」 「バビロンにいる魔女様に。私を。」 そう言った瞬間、おじさんは固まった。 まるでピキィと空気が凍るような感じだ。 心なしか、おじさんの顔が青ざめている気がする。 「お、お嬢ちゃん。もう一度聞くよ?ふざけないで真面目に言ってくれ。何を届けたいんだい?」 「だから、私をバビロンにいる魔女様まで届けて欲しいんです。」 「本気かい?」 「本気です。」 ゴクリ、唾を飲む音がした。 さっきからおじさん挙動不審だし、何かあったのが?と言うか、何か変なこと言ったか? するとおじさんは、はぁぁーーっと長い溜息をついた。 「お嬢ちゃん。竜車に乗って、しかもあの魔女様の所まで行きたいんだね?」 魔女様ってもしや、何かヤバい人だったりするのか……? でも此処ははっきり答えておこう。 おじさんの目を見据える。 「はい。」 張り詰めた空気が辺りを侵食していく。 「………………………………………………。」   暫くの沈黙の後、 クックック….. と音が聞こえる。 どこからか響くその声に戸惑っていると、その瞬間おじさんは弾かれたように笑い出した。 「こりゃあ傑作だ。凄いねぇ、嬢ちゃん。その惚れ惚れする勇気に負けて、特別タダにしてあげるよ。それに無料の方が後々得をしそうな気がするしねぇ。」 おおおお!マジっすか!! おじさんの反応見ているとすっごく不安になるけど、タダは嬉しい。 嬉しいが、一応真剣な顔をしておく。 「ありがとうございます。」 そして軽く会釈をする。 その私の様子を見て、おじさんは満足気に頷く。 「じゃあ、竜車を呼ぶぞ。あぁ、あと嬢ちゃん。」   最後に…と付け加えるようにおじさんが言う。 「何ですか?」 「嬢ちゃんの名前を聞いておこうと思ってね。名前は?」 なっ名前!! うーん。どうしようか。 このおじさん信用は出来そうだけど…… まぁそうだな。警戒を緩めず偽名でいこう。  「ホォグ。苗字はないです。」 「そうかそうか。俺はカリビアだ。宜しくな!」 「宜しくお願いします。」 そっと握手をする。 とんでもなくお得?な商談はこれにて終了した。 もう暗くなってきたので、月明かりが私たちを明るく照らす。 楽に異世界生活を楽しむと言う未来は、明るく私を待っているかようだった。
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