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「さあ。生死も存在も自分で決めるものです。わたくしは生を感じています。だって、こんなに面白くて、こんなに楽しいのですから!」  ゴッホは吊り革から吊り革へと飛び移り、頭上の荷物置きの上をころころと前転した。それはとても愉快で、笑いがこみあげてきた。こんな愉悦、腹の中に抱えて隠しておくことなんてできやしない。困難だ。難しすぎる。 「ねえゴッホさん! わたしはこれからどうすればいいのでしょうか! わたし面白くて、もうおかしい! うふふ、涙が……」  吊り革に足をかけ、左手でそれに掴まりながらゴッホはハットを脱いだ。 「喜劇の世界へようこそ! さあさあ、以前のあなたのように絶望しきった人間は数知れません! 幸福は共有されるべきなのですよ!」  ハットがわたしの頭にふわりと乗ると、車内にアナウンスが流れた。透明人間になったことを実感したときに流れたワルツだ。老婆はなにかに憑依されたように立ち上がり、白鳥のようなポーズをとった。  まもなく、車両は笑い声に包まれた。拍手と歓声が響き、ゴッホもそれにつづいた。彼の頭上の穴はみるみるうちに広がっていき、やがて骨だけの姿となった。それでもなお、彼の紳士的な笑い声はこだましている。 「次は喜劇の世界、喜劇の世界です。あなたが務むは喜劇の世界。降車の際は、足元で小さなステップを刻みましょう——」
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