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「そんなことできるわけないじゃないですか」  雨が止んだ。予報では明日の朝まで降るといっていたのに。 「ああ、なんてナンセンス! あなたは知らなすぎるのです。まあ無理もありません。ふつう、わたくしのような救世主は目に見えません。悩めるあなただからこそ、この千載一遇のチャンスに巡り会えたのですよ! どれ、そんなに疑うのならば、一緒に街へ行ってみれば納得していただけるでしょう」 「街といったって、もう暗いですよ……」  アパートから少し離れると最寄駅に着いた。ゴッホはくりくりとした目を細め、駅周辺の過保護な照明を睨んではうつむいてのくりかえしである。 「あの、ゴッホさん。帰っていいですか」 「お望みならどうぞご勝手に。ですが、そんなことより、前を向いて歩きましょうか」  前から歩いてくる背の高い学生は、スマートフォンに気を取られこちらへまっすぐと進んでくる。彼は気づいたときには直前の領域、わたしのプライベートスペースに土足で入りこんでいた。  ぶつかる……  とっさに目を瞑った。が、起きるはずだった接触事故は起きなかった。 「え……」  学生は気にもせず歩いている。まるでわたしが透明人間であるかのように—— 「透明になったことを実感していただけましたかね。さあ、もうあなたは自由です。くだらないしがらみや常識から解放されて、好きなだけお楽しみください!」
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