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「おい大田! いつもこき使いやがって! 自分のミスを全部わたしたち部下になすりつけやがって! このっ、このっ! くそ野郎!」  渾身の力で顔を踏みつけ、目に親指をつっこんで、鼻に握り拳をお見舞いする。しかし大田は知らん顔で鼻の穴に小指を入れている。なにをしているのかと思えば、パソコンでネットショッピングときた。しかも探しているのは健康器具だ。  筋が見えるほど細い首とは裏腹に、大田の腹は不気味なほど膨らんでいた。さては楽に痩せようとしているな。どうして醜い者ほど楽に痩せようとするのだろう。  次に開いたのは育毛剤のページだ。なるほど、デスクの上から見下してやると実感する。バーコードとは言い得て妙だ。不良品に値札をつけるなんて、天は阿漕(あこぎ)な商売をしている。 「トーコさん、いくらやっても無駄ですよ」 「わかってます! でも……」  透明人間は決して人に触れることができない。どんなに憎くとも、またはどんなに愛しくとも、わたしが透けた身であるかぎりは触れることができない。  ああ、実体であれば殴り倒せたのに。 「はは、あなたも大田に恨みがあるんですね。ぼくも最初はあなたみたいに好き勝手暴れました。しかし、虚しさだけが積もります——」  二十代だろうか、赤いネクタイの男性はベリーショートの頭をかきあげた。まるでドラマのヒロインのような仕草だ。 「あなたも透明人間ですか……」男はわたしの言葉を聞くとゴッホに一瞥をくれた。「まさか大田がわたし以外の人も追いつめていたなんて!」 「彼は多くの人間の精神を蝕みました。少しでもが強かったら、今頃彼の体調は最悪だったでしょうにね」
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