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「南先輩。頭を打ったと聞いたけど大丈夫ですか?」
「洋介。心配してくれてありがとう。精密検査したけど異常はなかったわ」
私がバイクで転倒して救急車で運ばれたと聞いて後輩の洋介が病室に見舞いに来た。
私は陽介の1学年先輩で色が根大学のアメリカンフットボールのマネージャーをしていた。
後輩の洋介は卒業後に私の後を追うように同じ会社に営業として入社した。職場の先輩でもあったので大学時代からの腐れ縁だった。
「俺なんかアメフトで頭打ち過ぎて大丈夫かもわかんないよ」
「タックルされた時さぁ、怖かった?」
「殺意とか感じるさ。今でも忘れられないよ」
「人の目が一番恐い」
「そんなこと思ってたんだね。私マネージャーだから分かんなかった」
洋介が大学3年、南が大学4年の時にアメフト部は絶頂を迎えた。強くなった原因は洋介の学年の部員数が多かったことだ。
部員が増えたのには理由があった。南の学年には女子マネージャーが5人いて他大学からは「シスターズ」と呼ばれるほど人気があった。
そのため、マネージャー目当てで部員数が激増したのだ。
活発で健康美の私、清楚でお嬢様タイプの里見、モデル体形でボーイッシュな理央、小さく童顔でメガネっ子の亜美 お姉さまタイプの明日香は遠くから見ても男性の好きな体形だった。
私と洋介は一度も恋愛関係にはならかった。洋介は2年の春に3か月間、清楚でお嬢様タイプの里見と付き合った。
男子校から進学した洋介は女性と付き合ったことがなかった。部室では部員たちが風俗の話を平気でしていたが、洋介は風俗に行くタイプではなくむしろ嫌っていたため、全く経験がなかった。
3か月で里見と別れた原因だが、洋介が浮気したということになっていた。実際は洋介は浮気してはいなかったが、里見が1つ上の先輩だったこともあり、洋介は食い下がる間もなく別れた。
本当の原因はシスターズの他の4人は里見から聞かされて知っていた。里見が言うには洋介はとてもHが下手でさっぱりうまくならないから、つまらないというのが原因だった。
洋介は体格もサイズも問題はなく早漏でも遅漏でも健康的な男子だったが、里見は美人で男性経験が豊富過ぎたために洋介とは釣り合わなかったのだ。
童貞だった洋介を筆おろししたこともシスターズは更衣室で聞いて知っていた。里見はHした次の日には更衣室で全てシスターズに話をして聞かせた。
洋介といっしょのベッドの中で里見がたまりかねて指導したというのだ。
「ただ腰を振るのではなく、自分も相手も気持ちよくなるように」
「すいません!」
素直すぎる洋介が謝りながらHするので冷めると里美は引いてしまった。
「別れたい」
里見が更衣室で言ったときは、素直な後輩の洋介を傷つけるなとシスターズ全員が同意していた。弟を守る心境だった。
「いらないなら私がもらうわ」
お姉さまタイプの明日香が洋介を誘惑した。
大学裏手の色が根山の人気のないところに呼び出してほとんど会話もせずに、大きな石の上に座ると明日香は自分で上半身をまくりあげた。健康な男子の洋介は耐えられずに明日香の胸で遊ぶ。
「だれも来ないから大丈夫」
明日香はその先を期待した。屋外だったので洋介には刺激が強すぎたせいか、明日香の大きすぎる乳房で遊んで、それ以上は何もしなかった。
「そのあと、洋介は何もしなかったのよ」
明日香は内心とてもがっかりしたらしく、更衣室で洋介が胸で遊んだがその先は何もしなかったことをシスターズの皆に話をした。
シスターズの5人は屋外であろうと上半身から下半身へと時間が流れるのが通常だと思った。洋介は胸で遊んだ後に明日香がめくり上げたシャツを元に戻すという、時系列に逆行することをした。そこが5人にとってはミステリーな話だった。
里見と洋介が別れる決定打はサークルのコンパだった。洋介は酒癖が悪く、飲むとすぐ気が大きくなった。そして一定の飲酒量をこえると自分で何をしているのかも分からなくなる。次の日は記憶もしていない面倒な奴だった。
コンパで程よくアメフト部員全員が気持ちよく酔ったころに洋介は酩酊し始める。
洋介の隣には当時付き合っていた里見ではなく明日香がいた。洋介は先日の色が根山の件もあって悶々としていた。酩酊したあたりに明日香ではなくボーイッシュな理央に変わっていることに洋介は気が付かなかった。
「続きをしようよ」
酩酊した洋介がろれつの回らない口調で理央に抱き着いた。
「キモいんだよ。さわるんじゃねぇ」
理央は立ち上がると洋介を前蹴りして突き飛ばした。
理央は幼少よりシュートボクシングをしていたので洋介はかなりの距離飛ばされた。
飛ばされた先にメガネっ子の亜美がいて洋介を膝枕する形になった。
洋介はもう相手が誰かわからず亜美のTシャツをはぎとると頭上で振り回した。
上半身が露わになった亜美が腕で胸を隠す姿を男子部員のすべてが目撃していた。
キャプテンがすぐに気が付いて自分のシャツを亜美いかぶせて、泥酔している洋介は他の先輩数人に羽交い絞めにされた。
次の日、亜美には土下座して許してもらったが、謝罪する前も後もなぜか亜美は優しくメガネの奥の目は慈愛に満ちていた。
酔って膝枕をしたあとに亜美の中でなにかが芽生えていた訳ではなく、誰にでもうるんだ目をする小悪魔的な表情は亜美の特技だった。
「なぜ、私のTシャツを脱がせたの?」
「続きがしたかったから」
亜美が洋介に質問すると洋介が白状する。
亜美は『続きがしたかったから』が色が根山での明日香のことだと分かった。
明日香と続きをしなかったのか? 不思議に思ってはいた。
「なんの続きかは分かんないし、続きだなんて知らなかったのよ」
亜美は色が根山で明日香が洋介を誘惑したのをシスターズ全員が知っていることを洋介には言えなかった。
「もうあの瞬間まで戻ることはできないのよ」
亜美が残念そうな顔をした。
あの瞬間とは話の流れからはコンパの席で亜美の服をはいだ瞬間のことだが、洋介が想像したあの瞬間は色が根山での件だった。
「すいません!」
洋介が謝るのを見て、亜美の口が微笑した。洋介は謝罪しに行ったその場でうるんだ目の亜美を見て勘違いした。
お互いに正座して見つめあっているうちに洋介は気が変になって、亜美の顔に自分の顔を近づける。
亜美は見かけによらず男性経験が豊富だった。拒みもせず面白そうだからとそのまま洋介を見つめつづける。
洋介は罠にかかるように唇を重ねて激しく吸ったが、女子更衣室だと気が付いて我に返るとその先を続けるのをやめた。
「ほんとごめん!」
洋介は更衣室を出ていく。
「ほんと、つまんないやつ」
亜美は笑顔だったが目の奥が怒っていた。
このことは亜美の口から更衣室でシスターズに報告される。洋介は続きができれば誰でもよかったということになった。シスターズのメンバーは誰も責めることはなかった。
「あなただって洋介に元彼の続きを求めているでしょうに」
里見に対して亜美が言ったのを聞いて4人は妙に納得した。
明日香と色が根山であったこと。さらに謝罪した亜美の唇を奪ったこと知っても、里見は全く怒ってもいなかったが、洋介に対しては怒ったふりをした。
里見は全てを知っていたが別れる口実に十分だった。
実はボーイッシュの理央も南も洋介のことは嫌いではなく好意を持っていた。
シスターズの中ではみんなの洋介ということになっていた。
理央は一瞬キャプテンと付き合っていたが、別れると洋介にちょっかいを出した。
ボーイッシュな理央は里見と同じ理由で3か月で洋介と別れるとそのあとはメガネっ子の亜美が洋介と6か月付き合う。
洋介が理央と亜美と付き合ったことはアメフト部の中では極秘だったので、他の男子部員の誰も知らなかった。
シスターズの女達は更衣室の報告会ですべてを知っていた。亜美の報告では洋介がそれほどHはうまくなってはいないということだった。
「洋介は自分勝手に動いてそこに当ててこないから、自分で上になって動いてみたら?」
「マグロのように寝ている男なんてどうなの?」
「洋介が覚えるように微妙に腰を動かしたら?」
シスターズは洋介のやさしいお姉さんたちだった。
私は卒業後は彼氏がいなかった。洋介は私を慕ってチャンスをうかがったが、洋介とつきあうようなことはしなかった。
卒業後もシスターズは不定期に集合してランチをしている。里見も明日香も亜美も理央もすでに既婚者であり新婚の亜美以外は子供もいる。
洋介が私を追って同じ会社に入ったことや、今も人懐こく南の部署に出入りしているのもシスターズは知っていた。
病室で洋介が真顔になって黙り込むと絞りだすように話し始める。
「南先輩、大学時代からずっと先輩のことが好きで、今も忘れられない」
「洋介、今さらなによ」
「南先輩のことをずっと思っているんだ」
「大学の時は私以外の4人のマネージャーと付き合ったのに、私とは付き合わなかったじゃない」
「南先輩、なにを言っているんですか? 色が根大学のアメフト部のマネージャーは南先輩しかいませんよ」
「嘘をつかないで。私はあなたが里見と付き合って童貞を失ったことも、色が根山で明日香の胸をもてあそんだことも、部室で亜美の唇を奪ったことも、キャプテンと付き合っていた理央とも関係したのも全部知っているのよ」
「南先輩、それ全部先輩の話じゃないですか。僕は大学の時、先輩としか付き合ったことがないんですよ」
頭に包帯を巻いた私はうつむいた。
「あれが全部私だった? 女子更衣室で話をした同級生がいなかったというの?」
「俺との思い出がすべてなくなっているんだ」
洋介との思い出がすべて消えた?
「馬鹿にするのもいいかげんにして! もう帰って」
洋介を病室から追い出して間もなく看護婦が私の様子を見に来た。
「体調の方は問題ありませんか?」
「ええ。遅くまで友達がいてすいません」
「お友達?」
「部屋に友達が四人いるのが見えませんか?」
「南さん。病室にはあなたと私しかいませんよ」
私のベッドの周りにいる大学の同級生はいったい誰だろうか?
真顔になった私を大学時代の同級生が優しく見守りながら会話を続けている。
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