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清心のネックレス盗難事件を立証せよ!
現在の警視庁には立証班というものが存在する。
そこに所属するのが私、秋葉果穂。
そして同期の深西。
かつてロッカールームだった空間にぶら下がる真新しいプレートと二人分の机が並んでいるだけの部屋。
こんなところに来るはずじゃなかった・・・
向かい側には広々としたスペースに大量に並んだ机。
刑事の花形捜査一課。
新米の憧れと言ったらここしか無いだろう。
私もあんなキラキラしたところにいきたい。
捜査一課に所属している真央がカウンターからひょこっと顔を出した。
「真央。どうしたの?」
「ん〜?果穂に会いたくて」
くるっと巻かれた髪。ふわっとした服。のほほんとした雰囲気。
全てがゆるふわで構成されている真央とは東京のお嬢様学校で出会った。
某アドベンチャー企業の社長令嬢という身分を隠してこんな危なっかしい仕事である刑事をやっている。
「今んとこ果穂のパレット事務所はどんなー」
咄嗟に真央の口を押さえる。
「ここで話しちゃだめでしょ」
私は「大手事務所の社長令嬢」・「刑事」・白熱のシンガー「BLUE」という三足のわらじを履いている。
「で?本当に私に会いにきたわけじゃないでしょ」
「さすが果穂、わかってるね〜」
「もう、冷やかしはいいから」
「先日起きた清心のネックレス盗難事件だよ」
「でも犯人は逮捕されたんじゃ?」
「うん。犯人は捕まったけどトリックがわかんないの。だから立証班に回ってきたんだよ」
「一課が解けなかったものを代わりにとけって、そんな・・・」
「頑張って〜」
ヒラヒラと手を振って真央は一課へと消えていった。
清心のネックレスは歴史上最も美しいネックレスとされている。
中世ヨーロッパのマロースト夫人が所持していたとされる世界最大のサファイヤをあしらったもので各地の展示会を転々としている。
その清心のネックレスが盗難されたのである。
世界的に貴重な品なので防犯対策もバッチリ。
カモフラージュ用の果物かごに入っているカメラもあるくらいだ。
犯人は防犯カメラに繋がる電源を壊して証拠を残さないようにしたが展示会側もそんなこともあろうかと果物かごの中にあるカメラの電源だけは他のと一緒にしていなかったらしくそのカメラにバッチリと犯人がネックレスを持ち去る姿が写っていたそう。
だが出入口付近に置いていたため犯行の瞬間は捉えられなかったのだ。
「深西、現場に行きましょう」
「おう」
四面を囲まれた強化ガラスは手前の一枚だけ綺麗に割れていた。
上からガラスを覗くとこんな感じになっていた。(下の図参照)
「一課の人間はバカなのか?普通に割れるだろ?」
「バカはあんたよ捜査資料に書いてあるようにこのガラスは強化ガラスだし、部屋に入ってから出るまでものの30秒だったって」
結局何もわからずじまいとなった。
何げなくテレビをつけるとコメディ番組がレシートで作ったブランコに肥満体型の人を座らせるというアホらしいことをやっていた。
「切れるに決まってるじゃん・・・」
結果は違った。あんな弱々しいレシートが伸びている。
「へー、レシートって縦の力には強いんだ・・・」
頭の中がフラッシュバックして気づく。
「もしかして・・・」
スマホの検索画面を開く。
「やっぱり・・・」
「なんか上機嫌だな」
「まあ。事件の謎が解けたから」
「え!?」
「一課の堀川課長と一緒に現場検証に行きましょう」
現場に着くと先に課長が待っていた。
「おお!秋葉くんに深西くん!ところでわかったというのは本当かい?」
「はい」
「説明してくれ」
「物は試し・論より証拠って言いますよね?実感していただこうと思って強化ガラスを用意しました」
「ほう」
「今から課長と私でどちらが早く強化ガラスを割れるか勝負したいと思います。使っていいのはハンマーとスプーンだけ。最初に課長から選んでください」
「じゃあ僕はハンマーにするよ」
「では私はスプーンで。ハンデを設けましょう、何分にしますか?」
「ハンデなどいらないよ。むしろ僕がハンデをあげないといけないくらいだ」
「本当にいいんですか?」
「ああ」
『スタート』
課長はハンマーで必死に正面を叩き割ろうとしている。
私が当てるところはただ一つ!
パリン。
課長も深西も唖然としている。
「どこを叩いて・・・?」
「側面です」
「え?」
「強化ガラスには表面からの衝撃は強い反面、角や側面には弱いんです」
「なるほど・・・」
「もう一度犯人の持ち物を検査し直してみてください」
「さすが秋葉だな」
『この犯罪、立証しました』
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