聞き込み(4)依頼人の元部下その2

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「ですが、私が退職してから二ヶ月くらい経ってから、波田課長の娘さんが怪我で試験を受けられなかったというのは、体裁を気にしてのごまかしでなかったことを知って……。あの時は、自分の下種の勘繰りを反省しました」 「澤山さんは、波田の娘の事件のことを知っているんですか?」  なぜ? どういう経路で知ったんだ? 当時まだ会社に残っていた派遣社員たちも、翼くんの事件のことは知らずにいたのに。  それまで顔を俯かせていた俺が急に顔を上げたんで、彼女は少しく驚いたようだった。まあ、ごつい男の顔が急に眼前に迫ってきたら、誰でも驚くか。  老人特有の灰色の落ち窪んだ目で、暫時、彼女が俺を凝視する。やがて再び目を伏せて、彼女は、思いがけない情報を俺に開示してくれた。 「十年前にも一度だけ、私のところに警察の方がいらしたんです。『何か知っていることはないか』『ありません』で、終わりでしたけど」  十年前、警察は彼女のところまで来ていたんだ。事件当時、現在進行形で波田に苦しめられていた派遣社員たちをすっ飛ばして、既に波田の部下でなくなり波田の横暴から解放されていた澤山則子のところまで。それはつまり、派遣社員たちには確固たるアリバイがあったということか。
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