不快な依頼人

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 大同窓会は盛況だった。出席者の最高齢は九十一。一〇一歳の存命卒業生からはビデオレターが届き、会場で上映された。最年少はもちろん、最後の卒業生で十二歳。北は北海道から南は沖縄まで、同窓生は全国に散らばっていて、海外からの出席者もいたらしい。百年を超える歴史ある小学校だけあって、その卒業生たちはワールドワイドに活躍していた。  その一方で、東京に行くのがちょっとした非日常イベントの俺みたいなのもいる。スタート地点は同じなのに、人の人生ってのは、本当に人それぞれだ。  ちょうど現役をリタイアした奴が多くて、十二歳の同窓生を除くと、俺の卒業年の出席率がいちばん高かったらしい。といっても、十五人ほど。六年卒業時に俺と同じクラスだった奴が、俺を含めて六人。俺以外の五人のうち、四人はどんな奴だったのかを何とか思い出せたんだが、一人だけどうしても思い出せない奴がいた。髪の毛は八割方白くなっていたが、ハゲてもいないし、腹も出てないっていうのに、名前も思い出も出てこないんだ。そいつだけ、どうしても。 「おい。あいつ、誰だ。思い出せん。髪の毛があるのに」  髪の毛が半分以上なくなっていても、すぐに『あいつだ!』とわかった元同級生に、俺はこっそり訊いてみた。 「俺もなかなか思い出せなくてさー。波田だよ、ハタ。いただろ、告げ口のハタ」 「ああ」  名を教えられ、俺は、少なからず不愉快な気分になった。  告げ口の波田。そんな奴がいた。卒業と同時に、綺麗に忘れていたが、確かにいた。  その存在を思い出した途端、俺の脳裏には、半世紀前の小学校の教室で繰り広げられた場面の記憶が蘇ってきたんだ。『西暦下二桁から十八を引く』の『十八』はなかなか思い出せないのに、半世紀も前の子供の頃の記憶はすぐに出てくる。不思議な現象だが、世間ではよくあることらしいな。
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