不快な依頼人

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「女の子? 成人女性じゃなかったのか」  波田が使った言葉に引っ掛かった俺が問うと、波田は苛立ったような早口で、『女』ではなく『女の子』という名詞を使ったわけを、俺に投げつけてきた。 「通り魔にやられたのなら成人女性ということもあり得るが、二度まで突き落とされたとなると、通り魔の仕業とは考えにくいだろう。金銭目的ではないだろうし、となれば怨恨報復の線だ。受験生への怨恨となると、志望校が同じ受験生がライバルを蹴落とそうとするパターンしか考えられない。娘の学校では、いじめたりいじめられたりというようなこともなかったらしいし、受験のライバル排除の可能性がいちばん高かったんだ」 『おまえの娘がおまえに似ていたら、いじめている自覚がなくても、級友に恨まれている可能性は大いにあるぞ』と、俺が内心で呟いたことは内緒。 「だが、同じ大学の同じ学部を受ける受験生は皆、当然、その日は受験会場に行っていたわけだろ?」 「それは……受験前から不合格とわかりきっているような生徒が――」  波田がしどろもどろになる。  まあ、その可能性がないとは言わんが、百パーセント不合格とわかっているなら、ライバルを一人蹴落としたところでどうにもならんし、少しでも合格の可能性がある生徒は一縷の望みにすがって試験会場に行っているだろう。 「追試験の日程を知っていたのは?」 「それは誰でも簡単にネットで調べられる」 「児童公園の周辺に防犯カメラはなかったのか」 「公園の出入り口に一つあった。娘の証言通り、黒いロングコートの女の子が数秒間だけ映っていたそうだ」  俺の質問に、波田はほとんど即答してきた。この十年間、波田はそのことばかり考えていたのかもしれない。  だが、警察に被害届を出したのが娘の追試験の翌日――最初の事件の六日後では、警察は現場検証もできなかっただろう。警察というより、波田が初動を誤ったんだ。
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