不快な依頼人

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不快な依頼人

 波田に再会したのは半世紀振りだった。奴に会わずに済んでいられた半世紀の間、俺はなんて幸せな人間だったことか。冗談じゃなく、わりと本気で俺はそう思った。  俺が五十九年前に入学し、五十三年前に卒業した小学校が廃校になるってんで催されることになった廃校記念大同窓会。  小学校の校舎自体は東京に接していたとはいえ神奈川県側にあったのに、大同窓会の会場が東京都心の某有名ホテルになったのは、幹事の都合か、でなけりゃ、出席者の相当数が東京在住もしくは東京勤務だからなんだろうとは思ったんだが(それも理由の一部だったらしいが)、日本各地に散らばった同窓生が一堂に会するには、やはり東京が最適ということらしい。  大同窓会が催されたのは、西暦二〇三一年五月。それまでは、西暦を和暦に変換する時には西暦の下二桁を足した数に令和をつければよかったのに、それができなくなったことに不便を感じ始めて一年余。毎回『西暦下二桁から十八を引く』の十八をど忘れしてしまうのは歳のせいかと、我が身を情けなく思い始めていた頃だった。
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