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ファイル1:アリサ・ルピナスによる事件
――なんて、某探偵漫画のパロディしてる場合じゃないわよね。
ライスシャワー学園高等部の入学式の途中、私はため息をついた。
この世界の入学式は九月だから、単純に校庭で立っているのが暑いというのもあるけれど、それだけじゃない。
――ああ、ついにこの日が来ちゃったなぁ。悪役令嬢:シャーロット・ハルモニアにとって終わりの始まり。
乙女ゲーム『怪盗ラプソディ』のストーリーはここから始まる。
シャーロットは警視総監の娘で自身も最年少警部という輝かしい肩書きを持つのだけれど、『怪盗ラプソディ』の主人公、アリサ・ルピナスには負けっぱなしの逃げられっぱなし。
ラストでアリサは攻略対象の男の子と国外逃亡するのだけれど、その時にアリサがシャーロットのクラスメイトだったことが明らかになるから大変。
同じクラスにいながら怪盗を取り逃がしたシャーロットの信用は一気に失墜。田舎の交番に左遷されてしまうのよ。
転生したばかりの頃は、それもしょうがないかと思ってたけど……。
でもこの世界の実情はそんなに甘くなかった。
さすがにいわゆる中世異世界ほどではないにしろ、それでもこの世界の文明レベルは元いた世界よりだいぶ低い。
田舎に行ったら探偵小説も恋愛小説もなかなか手に入らなくて、きっと私は耐えられない!
そんなエンディング、なんとしてでも回避しないと――!
――待って。ちょっと卑怯だけど、私は前世知識で怪盗がアリサだって知ってるのよね。
いくらなんでも、最初から誰が犯人かわかってれば尻尾の一つや二つ掴めるんじゃないかしら?
「それでは教室に向かう前に、座席表を配りますね」
ちょうどいいタイミングで、列の前方で担任の先生が言ったのが聞こえた。
よし、まずはアリサがどんな子か確認よ!
実は私も、アリサの外見は全く知らないの。
『怪盗ラプソディ』は夢女子が自分を当てはめて妄想しやすいようにするためか、主人公が映ってるスチルが一枚もないのよね。
「アリサ・ルピナス……アリサ・ルピナス……っと」
座席表を眺めて、私は青ざめる。『アリサ・ルピナス』の名前がどこにもない!
「そりゃあ、乙女ゲームをデフォルト名のまま遊ぶプレイヤーのほうが少ないか……」
あーあ、いい考えだと思ったけど、そう甘くはないかぁ。
再びため息をつく私の肩に、誰かの手が置かれた。
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