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やはり仙桜寺は迫り来る手裏剣をいとも簡単に弾いてみせる。
だが、その迎撃に生まれる一瞬の隙を突くことで、
野薔薇は炎天のもとまですり抜けられた。
彼は弱音を引き出そうとする疼痛を堪え、掠れた声色で呼び掛ける。
「千……いや、野薔薇。行くぞ」
彼の目配せに応じるように、野薔薇も頷き返した。
言葉を多く取り交わさなくとも、意思の疎通には十分だった。
「忌々しい奴らだ。二人まとめて斬り刻んでやるよ」
仙桜寺が忍刀を膝下に添え、再びおどろおどろしい構えを取った。
前回とは比べ物にならない殺気は空間を歪め、羽虫をも地にひれ伏せさせる。
「忍法 風浪斬」
旋風を残して、彼は空気に揺らいだ。
今どこを駆けているのか、いつ牙を剥くのか、それは彼自身にしか分からない。
対する野薔薇は全方位に蜘蛛の糸を散り撒く。
死角は潰したが、一切油断はならなかった。
以前と変わらぬ要領でいけば、勇猛な剣舞で突破され、あっけない幕切れとなる。
当の仙桜寺も同じ轍を踏む二人を想像し、独り口角を上げていた。
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